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価値のジレンマ・・・No.66 富裕層が逃げ出す「あの」国

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富を誇示するSNSの投稿禁止やIT企業への締め付け、不動産価格の下落とデフレ圧力、そして国内政治と地政学的なリスクの高まりなどを懸念し、今年「あの国」から出ていく富裕層は1万5,200人に上る予想です。近年「あの国」は成長が鈍化しており、この富裕層の動きは、同国の未来を暗示するかのようです。

中国の富裕層の流出は世界トップで、今年中国から出ていく富豪は1万5,200人に上る

富裕層の移住コンサルティング会社・ヘンリー・アンド・パートナーズ(H&P)は6月18日に発表した報告書によると、「中国は富裕層の流出で世界トップの座に就き、今年中国から出ていく富豪は1万5,200人に上る予想」とされました。

中国経済は、ゼロコロナ政策解除を契機に緩やかな回復に向かっていましたが、その後、不動産危機、地方政府が抱える巨額の債務、若年層の失業率の高さ、内需の伸び悩みといった複合的な状況が続いています。

習近平政権の所得格差の是正と持続可能な開発推進の名の下での「共同富裕」により、富を誇示するSNSの投稿禁止やIT企業への締め付けを強化してから、富裕層の国外脱出が増えています。

中国の富裕層は2013~2023年に92%増加したものの、不動産価格の下落は止まっていません。不動産は中国のGDPの推定25〜30%を占め、不動産危機が始まる前で見ると、中国人の世帯資産の約7割が不動産関連という状況でした。

中国には純資産100万ドル以上の富裕層はおよそ86万2,400人存在するとされています。中国人富裕層の国外脱出の背景には、習政権がここ数年、国内のテクノロジー企業への規制を強化している要因があります。アリババ、テンセントなど中国のIT企業大手5社の株式時価総額は2020年末から2023年7月までに合計1兆ドル以上縮小しており、規制強化に対して地方の起業家がは国外の比較的安全な避難先に逃れようとしているようです。

また不動産価格の下落とデフレ圧力で、ドル建てと人民元建て資産の収益格差が広がっているため、中国の起業家や投資家が国内政治と地政学的なリスクの高まりを懸念し、資産の分散を図っていることも脱出増加の要因にもなっているようです。

ちなみに中国の富裕層が選ぶ移住先は、1位はアメリカ、2位はカナダで、そしてEU、シンガポール、日本、香港の順になっています。

イギリスのシンクタンク「英国政府研究所」のハナー・ホワイトCEOは「中国は近年、成長が鈍化しており、時間が経過するにつれて、長期的な損失が拡大する恐れがある」とH&Pの報告書で述べています。

 

参考資料:中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は? ニューズウィーク日本版 2024年6月27日