コロナ不況でも会社が絶対に手放ない優秀人材5タイプ
コロナ不況でも、会社が絶対に手放したくない人材がいる。マーケティングコンサルタントの酒井光雄氏は「業績不振が続いても、5つの資質を備えた人は会社に重宝される。今後、ビジネスパーソンは会社に依存せず、自立して生きていける力を備えた人材を目指すべきだ」という——。
コロナで企業が直面する4つの急激な変化
JR西日本の長谷川一明社長が、「10年後に想定していた『あまり来てほしくない未来』が突然現れたという状況です。2020年の翌年が2030年だった」と指摘したように、今回のパンデミックは社会に急激な変化をもたらしました。企業が手放したくない人材の条件に目を通す前に、私たちが直面する企業環境変化を踏まえておいてください。企業環境変化は次の4点に集約できます。
(1)企業と社員の関係は、「仕事と働き方は、社員個々人の裁量が増大」
従来は企業が社員の仕事と働き方を決めていました。しかしパンデミック以降は、仕事の内容や仕事の取組み方は社員個々人が判断し、裁量する割合が拡大しています。
(2)働く場所と時間は、「オフィス集合型から、場所も時間も選択型にシフト」
社員全員がオフィスに集まって仕事をするスタイルが前提でしたが、コロナ禍からは個々の社員が仕事をする場所と時間の選択肢が増えています。
(3)仕事の取組み方と人材管理面は、「バーチャルとリモートが台頭」
これまでは「紙」を前提とした企業風土の中、対面とリアルで人材管理が行われてきましたが、パンデミックによって企業はデジタルデータの運用を前提とした人材管理にシフトし、バーチャルとリモートワークの比率が拡大してきます。
(4)マネジメントと人材評価面は、「必要があれば助言する支援型スタイルと成果重視のマネジメントにシフト」
管理職が部下の業務プロセスを管理し、結果と共に仕事の作業プロセスを重視するマネジメントがこれまでは主流でした。しかし働き方が変わると、社員に仕事の裁量を委ね、必要があれば上司が助言する支援型マネジメントに移行していきます。またオフィスで上司や管理職は部下が働く姿を目にできませんから、成果を重視するスタイルに変質していきます。
企業が絶対に手放したくない優秀人材
前述した4つの企業環境変化を踏まえて、職種を問わずすべてのビジネスパーソンに必要とされる資質として、次の5点が指摘できます。
タイプ1:自己管理ができ、成果を出せる人
リモートワークが一般化し、オフィスで上司が部下の姿を直接見る機会が減ると、マネジメントの仕方は成果主義の方向にシフトしていきます。そうなれば働き方は社員個々人に任せ、成果を出すことが何より求められます。評価方法も、成果の比重が高まります。
働き方の自由度が上がり成果で評価されるようになると、社員個人に問われてくるのは、セルフマネジメント力の有無です。組織や上司から指示されなくても、自ら考えて行動を起こしていける自己管理能力が何より必要とされます。
タイプ2:オンラインに対応したコミュニケーション能力を磨いている人
コミュニケーションのオンライン化が増大してくると、求められるコミュニケーションの質が大きく変わります。ビジネスチャットやメールによる文字表現やオンラインによる画面共有型コミュニケーションでは、表現能力に加えて相手の意図を正しく読み取る能力が不可欠になります。自分の伝えたいことと相手が伝えたいことを相互に理解し、文章や会話を通じて表現する力が必要になります。
オンラインに対応して高度なコミュニケーション能力を発揮する人は、社内外の多くの人たちからコミュニケーションを望む相手になり、「選ばれる人材」になっていきます。
知識の量より「知恵の量」
タイプ3:情報量が豊富で、相手がコミュニケーションしたくなる価値を備えている人
社会変化や構造変化を、ひとごとでなく自分ごととしてとらえ、広範なジャンルから情報収集を行い、情報に付加価値をつけて自分のものにして活用できる人材が求められています。この特性を備えた人なら、誰もがコミュニケーションしたい相手になるからです。コミュニケーションの価値を高めるのは、裏付け情報の有無です。価値ある情報を日々入手し、自分なりに加工し、自分ごととして活用しているかが問われてきます。
タイプ4:仕事をしながら、能力を高められるように学び続けられる人
資格取得という過去の「学び」でなく、現在の仕事やキャリアに生かせる「生きた学び」を日々継続し実践します。情報を暗記して記憶する「知識の量」を誇る学習ではなく、入手した情報を自分なりに咀嚼し実務に生かせるよう「知恵の量」を増やす学習に取組みます。こうした学びを続ける人なら、年齢にかかわらず周回遅れになることはありません。
タイプ5:環境変化に柔軟に対応できる人
今回のパンデミックでは10年掛けて起きる変化が、わずか数カ月で引き起こされてしまいました。組織と個人を問わず、その影響は多岐に及びます。「危機管理体制」「柔軟性」「新しい働き方」「リモートワーク」「情報セキュリティ」などウィズコロナの時代は、組織と個人に柔軟性を要求します。
「紙の書類や対面を前提とした過去の方法論」「ICTやデジタル対応への無理解」「会社に出て仕事をする『皆勤賞的取組み』」「不平不満を口にするだけで改善策を講じない」「最盛期だった頃のままで、思考が停止している」こうした硬直した姿勢では生き残ってはいけません。
職種別に見る「手放したくない人材」の資質
すべてのビジネスパーソンに必要とされる5つの資質を踏まえた上で、次は職種別に求められる人材の要件を洗い出してみます。
(1)営業職部門では、「社会構造の転換に即した行動」
徐々に進化してきたとはいえ、営業担当者は顧客と直接対面してニーズを探り、商談を進めることがこれまでの方法でした。「取引先に出向いて、直接会う」営業スタイルです。取引先に訪問し雑談から関係を作り、ニーズを把握して仕事につなげる手法は、非常に時間が掛かり、また取引先も時間を取られてしまいます。
今後はマーケティングオートメーション(MA)やセールスフォースオートメーション(SFA)といったデジタル手法も併用し、顧客ニーズを把握する力を強め、時間を効率化することが欠かせません。可能なところはデジタル化させ、逆に人として行き届いたフォローを行い、営業としての存在感と自身の付加価値を向上させていきます。
営業担当者が需要を顕在化させて的確な解決策を提示するには、コンサルティングやマーケティングのノウハウを身につけ高度化していくことも必要です。さらにメーカーの営業担当者は、高度な技術を平易に語れるようにして、担当者としての評価を獲得していくことが求められてきます。
テクノロジーに代替されない強みを持つ
(2)事務職部門(一般職)では、「得意分野や需要の高いスキルを高度化させて仕事をする」
オンライン業務が拡大すれば、電話応対・会議室の対応・FAXやコピー、会計の帳票管理といった業務は次第に自動化され、既存の業務は減少していきます。ECの利用が加速すると、小売業はもとより銀行や証券、保険などの業界では余剰人員が生まれます。テレワークを活用することでオフィススペースを縮小する企業が増えれば、一般職の業務を再編し、社員の再配置や削減が行われことにもつながります。
こうした環境変化に柔軟に対応しながら事務職の仕事を行うには、自身の得意分野や需要の高いスキルを高度化させながら、仕事に取組んでいくことです。
体重計で知られるタニタが採用したように、将来は社員ではなく個人事業主として業務委託を行う方式に切り替える可能性も視野に入れ、企業から仕事を受注するために必要なスキルを身につけます。さらに自身の業務能力を社会にアピールするコミュニケーション能力も必要になってきます。
(3)サービス職部門では、「ITを使いこなす側になり、集客につなげるマーケティングや広報の業務を担う」
医師や看護師に代表される医療福祉、警察官や消防士のような保安、公務員に代表される行政、JRやバス、タクシーの運輸、物流、コンビニエンスストアやスーパーなどの流通、保育士に代表される保育、食品など製造業、農業や漁業などの一次産業、飲食など外食産業などに従事するこれらエッセンシャルワーカー(生活の維持に欠かせない職業に従事している人たち)の人たちは、ライフラインを維持するために現場で働いています。
この分野で働く人たちが移動し、あるいは現場に出なくても済むように、遠隔医療のようなリモートモニタリング、リモート制御、ロボットやドローンなどを活用した「遠隔化」「省人化」「自動化」「スマート化」といったテクノロジーが社会で実用化されてきています。
こうしたテクノロジーの進展は現場で雇用される人員を削減することにもつながるため、従来のように単なる労務の提供ではなく、リモート技術やロボット、ドローンなどをコントロールし、使いこなす側に立つことが求められてきます。
飲食などのサービス業では非正規雇用の人が多いと思いますが、今後は集客や販促を担当するプロモーション業務、SNSやホームページにコンテンツを投稿して話題性を提供して集客につなげ、ブランド力を向上させるマーケティングや広報の業務へシフトしていくことで、手放せない人材になります。
従来の業務プラスアルファの資質が求められる
(4)管理職・役員では、「積極的にITを活用し、リモートワークを自ら実践する」
パンデミックによって引き起こされた社会環境の変化と働き方の変質に対して、企業が迅速に対応できるかどうかは、管理職と役員の変化対応力とITリテラシーに大きく左右されます。自身に専門知識がないから関与しないようでは、組織のIT対応は進まず、迅速な対応と投資は実行できません。
部下や秘書に丸投げせず、管理職や役員が積極的にITを活用し、リモートワークをまずは実践することです。不明点は人に頼らず、自身でネット検索して、対応方法を学ぶようにします。組織のインフラ整備を推進するのは、管理職・役員の采配と指示があって現場が動くことを念頭に置きます。
企業のIT化はオフィスのPCに、自宅のPCからリモートでアクセスでき、オフィスで仕事をする状態と同じ環境を実現することです。
認証や通信の暗号化などの情報セキュリティーを整え、自分のPCからリモート操作できる仕組みになれば、利用する人のITリテラシーに頼らない運用が可能になります。リモートワークでは予期しないトラブルが必ず発生しますから、ITリテラシーが高くない社員向けには「電話」ではなくSlackなどビジネスチャットを使ったヘルプデスク機能を用意し、社内の利便性を高める仕組みづくりを用意します。
これらのインフラ整備を推進する人材であり決定権を持つのは、管理職と役員であることを念頭に入れ、自ら率先して行動を起こしてください。
(5)経理・財務部門では、「役割が高度化して専門職化し、経営戦略や投資戦略を担うためにAIを駆使するスキル習得が必須化」
テレワークが加速すれば、経理や財務の仕事はデジタル化が進みます。領収書や帳票類は電子化され、自社の経理サーバーはクラウドになり、そこで使用するソフトウエアを運用することになります。膨大な量の経理処理や各種帳票の仕分け作業、決算報告書の作成などには、従来多くの担当者と作業時間が必要でした。しかしその多くは自動化されていきます。
経理や財務は管理面が中心で、正確性や安定性が要求されましたが、自動化とシステム化によって要求される内容は変質します。企業の財務部門は、予算の最適な配分や投資を考えて遂行する能力が要求されてきます。AIによる戦略的な資金管理ツールを使いこなす知識も必要になるでしょう。
経理・財務の存在価値と役割が高度化すれば、専門職化することは確実です。経営戦略や投資戦略に加え、AIを駆使するスキルを習得し、市場価値を高める取り組みを行ってください。
「会社に依存せず、自立して生きていける力を備えた人になる」
(6)総務・人事部門では、「オフィススペースの縮小対応とWEB面接運用の高度化」
総務部門はテレワークの増大によって、まずオフィススペースの縮小やサテライトオフィスなど施設面の対応を行うことになります。オフィススペースを縮小する取組みは、家賃や社員の交通費の削減など短期的なメリットの把握はもとより、テレワークによる社員のパフォーマンス状況の把握など、中期的に見て今後の取り組み方を視野に入れることが欠かせません。代表電話や代表住所になっている企業の場合は、テレワークにふさわしい連絡先を設けて稼働させることも総務の仕事になります。
人事部門は、人材採用時にWEB面接を取り入れて、対面せずに候補者の適正を判断するケースが出てきます。リアルのオフィスワークからテレワークに代わると、社員の評価基準を変更するケースも生じます。従来の対面面接とWEB面接で、判断基準が異なる事例が生じた際にはその具体例を記録し、今後の人材採用に活用できるようにします。
ここまでコロナ禍による業績不振でも、会社が絶対手放さない人材について解説してきました。これからビジネスパーソンが心掛けて目指す姿とは、「会社に依存せず、自立して生きていける力を備えた人になる」ことです。そういう人なら、絶対に企業はその人を手放すことはありません。さらに他企業からも引く手あまたの存在になるともいえるでしょう。
※筆者註:参考資料 JTB Benefit「【あなたの仕事はどう変わる?】アフターコロナのニューノーマル時代!職種のあり方が変わる!」
(https://jtb-hrsolution.jp/hrsupplement/evp/64)