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スピーチが絶品の人は「失敗談」から入る

魅力的な話は3部構成になっている

掲載URL:http://president.jp/articles/-/24334

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社長の参謀ブログ

人の記憶に残るスピーチと残らないスピーチ。人に感銘を与えるスピーチと与えないスピーチ。それぞれ、どこが違うのか。ポイントは、テーマ選択とストーリー構成にある。そして最後の決め手は、練習量だ。スティーブ・ジョブズはわずか5分のスピーチのリハーサルに、丸2日をかけたという。

スピーチが得意な人は、コツを知っている

朝礼、納会、仕事始め、株主総会、地元経済団体での挨拶、結婚式の来賓挨拶など、経営者や経営幹部になると、スピーチをする機会は増える。スピーチで聞き手が感銘し、記憶に残る話ができる人は非常にかぎられる。その理由は、話しの上手下手ではなく、話す内容が記憶に残らず、人に感銘を与えないテーマ選択とストーリー構成にある。

「沈黙は金」(注)とする考えが長く続いたせいか、日本人は多くを語らないことが美徳とされ、学校ではスピーチの教科はなく、人前で話をする訓練をすることはなかった。他方、欧米では経営者はもとより、リーダーになる人たちにはスピーチ力が要求され、教育を受ける機会もあり、スピーチで語られた内容が国や企業を牽引する力になってきた。

話し手が聞き手の心をつかみ、感動させ、記憶に残るスピーチの条件と何か。

(注)イギリスの思想家で歴史家でもあるトーマス・カーライルの『衣装哲学』にある言葉で、「Speech is silver, silence is golden.」から引用された。よどみなく話すことも大事だが、黙るべきときを知ることはさらに大切だという意味。

心をつかむスピーチへの5ステップ

ここから、相手にインパクトを与えるスピーチのするための、具体的な策を紹介していきたい。ポイントは、「人が心の中で感じている心情を言葉にし、共感や賛同を得て、行動に結びつく動機付けがなされる」ことだ。

1、聞き手の情報を集め、相手を知る

スピーチをする相手が社員なのか、取引先なのか。若者なのか、年長者なのか。ビジネスパーソンなのか、主婦なのか。聞き手が誰なのかを考え、聞き手が日ごろから感じていることや直面にしている状況について把握しておく。

結婚式の祝辞なら、新郎新婦の生い立ちやなれそめに加え、両家の両親の子育てについてのエピソードを集めておくといい。披露宴に招かれている人たちに両親の知人友人が多ければ、子育てに苦労した話はかならず共感してもらえるからだ。集めた材料は、スピーチの導入部などに使える。

2、スピーチする「大テーマ」を決める

引き受けたスピーチで、聞き手に対して「自分は何を一番伝えたいのか」「誰のために」「何を最も伝えたい」のかを決める。スピーチの結論、あるいはスピーチのタイトルだと考えればいい。たとえば、ビジネスパーソンなら、大企業ですら揺らぐ世の中で、先々に漠然とした不安を感じているだろう。彼らにはポジティブで、前向きな気持ちになるテーマが最適だ。

ビジネスパーソンに向けたポジティブなテーマなら、

・AIにはできない、人にしかできない仕事をする
・収入の多寡は、社会からどれだけ必要とされているかで決まる
・感動するサービスを提供する人になる
・職業の選択とは、人生を選択することだ
・運を味方につける
・名刺の力でなく、自分の力で社会から求められる人になる
・人によって態度を変えない人になる

などのテーマが浮かぶだろう。

経営者に向けたテーマなら、

・未来に不安を感じて立ち止まるのでなく、未来を自ら創造する価値について
・若者たちが入社したいと集まってくる企業の条件
・人は理でなく、情で動く
・生き方を変えた先人のひと言
・明日の後継者になる人たちに、これだけは伝えたいこと
・好調な時期に近づいてくる人、不遇な時期に支えてくれる人

などのテーマがある。

子供を持つ親や女性なら、

・一生忘れることができない、愛を注がれた思い出
・世界を変える人を、育てる人
・消費の9割を担う女性客の心をつかむ
・男性は問題解決脳で暮らし、女性は共感脳で生きる
・女性がかける励ましの言葉が、男性を飛躍させる

などがあるだろう。

スピーチのネタに困ったら、自分自身が聞いてみたい話や感動したテーマにすればよい。導入部が決まり、大テーマが決まったら、あとは実際にどう話すかだ。

魅力的なスピーチは3部構成になっている

3、落語にならって、スピーチを3部構成にする

落語ではいきなり本題に入らず、まず世間話や本題と関連する小咄(こばなし)をする。これを「マクラ」と呼ぶ。そして「本題」に入り、本題の最後に「落ち(サゲ)」が来る。落語を参考にして、スピーチも3部構成で組み立てると、魅力的になる。

3-1、オープニング(マクラ)

スピーチが印象に残るかどうかは、冒頭の話の内容で決まる。スピーチの達人とされる小泉進次郎氏は、ある講演会の冒頭でこう切り出した。

「民主党へ政権が交代した選挙で、初当選したときのことです。当時、世襲した政治家への風当たりが相当強く、自民党への失望感とも重なって、演説しても話を聞いてもらえなかった。自分の名刺を破られ、演説する横で太鼓を叩かれ、わざと足も踏まれた」

小泉氏が昔を振り返り、こんな苦労話を明るく話し始めると、聴衆は瞬時に話に引き込まれた。

聴衆に共感してもらい、関心をひきつけるには、自身の失敗談や経験談が何より効果的だ。自分が犯した失敗談や上手くいかなかった体験談は、聴衆自身も経験があるから共感される。

大ヒットした曲の歌詞を思い出して欲しい。「私はイケメンと付き合っているの、いいでしょ」などという詩は絶対に登場しない。自慢ネタは共感されず、逆に嫉妬や妬みを買うからだ。「何をしていても、どこへ行っても、いるはずのないそのヒトの姿を探してしまう」といった痛みが歌われるから、人は共感する。自身が経験した心の痛みを、共有できるからだ。

もう一つ避けたいのは、使い古され、訳知り顔に思われやすい、「グローバル」「ボーダレス」「ネットワーク」といったカタカナ言葉をつかうことだ。本論を話す前に、聴衆にありきたりな内容だと誤解されてしまう恐れがある。

3-2、本論(スピーチで最も伝えたい内容)

スピーチで選んだテーマについて語るのが本論だ。最も伝えたい内容を、ここで話すことになる。伝えたい内容が複数あるときは、前もって「今日みなさんにお話したいことが、3つあります」といくつ話すかを前もって伝えておく。こうすれば、聴衆は話が3つあることが先にわかるので、集中力を維持できる。3つの話には、それぞれタイトルをつけ、順に説明していく。

話したい内容が3つ以上あったら、内容を絞り込んでよりシンプルな内容にまとめ上げよう。本当に伝えたいことを明確化できるように、足し算でなく、引き算にして構成する。

本論に至る話の流れは、世の中で今起きている事や報道されている現象から、話し手が感じたこと、そして学んだことについて触れていく。書籍からヒント得たテーマを話す場合には、書籍の引用を説明するだけでは話し手に共感してもらえない。

自分で見たことや経験したエピソードを通じて自分が学んだことを織り交ぜれば、説得力が増す。書籍の受け売りでなく、話し手が人生から学んだ貴重な気づきを、聴衆に伝えることに情熱をこめよう。

3-3、クロージング(落ち・サゲ・締め)

本論の説明が終われば、締めくくりに入る。落語なら最後の「落ち」にあたり、「なるほどその通りだ」と聞き手を納得させる大事な場面だ。スピーチのクロージングも同様に、これまで話してきた本論の要約を、印象に残る短い言葉で締めくくる。話の内容を聞き手の心に刻むだけでなく、人々の行動を促すように、勇気がわき、元気が出る決め台詞をここで使いたい。

「歴史をつくる主役、それは今日ここにいらっしゃる、みなさんなのです」
「ご一緒に時代をつくっていこうじゃありませんか」
「さらに飛躍するには、みなさんの力が必要です。どうか力を貸してください」
「新たな家族が今日生まれ、歴史が刻まれていくことになります」
「過去を変えることはできませんが、未来はつくることができます」
「躊躇する必要はありません。今日から第一歩を踏み出せばいいのです」
「新しい時代の幕が開きました。一緒に、新たな歴史に名を刻みましょう」

こうした決め台詞でスピーチを締めくくれば、聞き手にあなたの想いが伝わる。

さて、構成も重要だが、もう一つ重要になってくるのが、スピーチの全体時間だ。

スティーブ・ジョブズは5分にすべて注入

(4)時間を考え、不要な内容は削り、シンプルにまとめる

次はスピーチに必要な時間をチェックする。人が1分間に話す文字数は、およそ300字前後になるので、3分間スピーチの場合の文字数は900文字前後になる。5分間スピーチの文字数なら、およそ1500文字前後が目安だ。

与えられた時間を考慮し、それよりもスピーチが長くなるようなら、削れるところはどんどん削っていき、シンプルにまとめよう。5分の話は、聴衆からは意外に長く感じる。よほど話し慣れている人でもないかぎり、一般的なスピーチでは5分以内にまとめるのが得策だ。

共感を呼び感動してもらえるスピーチをするには、原稿を書いて丸暗記する方法はあまりお勧めしない。その場の雰囲気や、前にスピーチした人の話の内容などを考慮し、オープニング(マクラ)の部分は、その場で変更したりアドリブを加えたりする場合があるからだ。そんな事態も想定して、マクラのテーマは複数用意しておくとよいだろう。

(5)本番前にしっかり練習する

スピーチの時間を決めたら、後は練習あるのみだ。

聞き手を魅了するスピーチやプレゼンテーションができる人といえば、今はなきアップル社のスティーブ・ジョブス氏だろう。彼が新製品発表のプレゼンテーションを行う際は、何週間も前から自社製品の機能や技術について調べ、わずか5分間のスピーチでも、その準備に部下と数百時間を費やし、リハーサルには丸2日間使ったという。

天賦の才能(生まれつきの資質)だと思えるほど卓越した彼の語りの上手さの裏には、周到に準備し、人並みはずれた練習量があったわけだ。そんな努力を微塵も感じさせず、ジョブス氏は聴衆をひきつけ、熱狂させる結果を出した。スピーチを成功させるには、練習すること。そして場数を踏むことに尽きる。

また、スピーチには人柄が出る。結婚式のスピーチで、東大を出た弁護士がスピーチしたときのことだ。自分が大学生のときに、新婦の家庭教師をしていたエピソードを、温かみのある福島の方言を使って話をされた。このスピーチにより、くだんの弁護士にはファンが増えた。方言を使うことで、上から目線でないことが列席者に伝わったからだ。人は「理」でなく「情」で動くということを、あらためて教えてくれたスピーチだった。