マーケティングのジレンマ・・・・No.33 大企業がテレビ広告離れを始める中、ネット同時配信サービスに踏み切れないテレビ局の先行き!
インターネットの広告費が増えればテレビ広告費は減少し、その影響は番組制作費に波及します。制作費が減れば民放テレビ番組の質は更に低下し、視聴者が減少すればテレビ広告費も下落していきます。
インターネットの広告費が増えてテレビ広告費が減少すると、民放テレビ番組の質は更に低下し、視聴者の減少によってさらにテレビ広告費は下落していく
資生堂は2020年9月6日に行った2020年第2四半期の業績発表会で、デジタルシフトをさらに推進していくと表明し、2023年までに広告媒体費の90%以上をデジタルにシフトすると発表しました。この説明会で同社魚谷雅彦社長は「2023年までに現在は50%程度である媒体費に占めるデジタル比率を90%以上、限りなく100%に近づけ、ターゲット効率を高め、ROIを高めるマーケティング」に転換すると述べています。
電通が2020年3月11日に発表した「日本の広告費」の発表によると、インターネット広告費は新設項目を加えて2兆1,048億円と6年連続で二桁成長し、テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛星メディア関連)の1兆8,612億円(前年比97.3%)を超えました。インターネットの広告費が増えればテレビ広告費は減少し、その影響は番組制作費に波及します。制作費が減れば民放テレビ番組の質は更に低下し、視聴者が減少すればテレビ広告費も下落していきます。
NHKは2020年3月から、1日約18時間のネット同時配信サービス「NHKプラス」の運用を始め、民放では日本テレビが期間や時間帯を区切った「トライアル」を開始しました。しかし民放各局はネット同時配信をすぐに開始できない事情があります。民放テレビ局は、ネット同時配信サービスを行うために必要なコストに見合う広告収入を得る必要がありますが、ネット同時配信をするからといって、広告主はそれに見合う広告料を簡単に払ってはくれません。例えネットで視聴できる環境を用意しても、コンテンツが魅力的でなければ視聴者は増えないからです。
さらにネット同時配信が難しい点は、キー局と系列ローカル局との関係があります。日本では関東など一部を除き、各キー局系列で都道府県や一定地域ごとにローカル放送局がテレビ放送を行っています。しかしネットにはエリアという垣根はありませんから、ネット経由でキー局の放送を全国で視聴できるようになれば、ローカル局の視聴者は減少し、ローカルクライアントからの収入が減ってしまう可能性が高いからです。
ローカル局が今以上に苦境に直面すれば、キー局にも影響が及びます。キー局は大量の視聴者を抱える全国のテレビ放送網を失うわけにはいきません。さらにキー局やその親会社である新聞社は、ローカルテレビ局に出資しているケースがあるからです。
テレビ広告費が安価になれば、中堅中小企業には広告の選択肢が短期的には増えます。これまでは高額で手が出なかったテレビ広告を、ローカル企業が起用できる可能性があるからです。しかし番組の質の低下は生活者のテレビ離れを加速させ、広告主は減少していきますから、中長期的にはローカルテレビ局からその経営は厳しくなることは避けられないようです。
※画像資料は、資生堂2020年第2四半期の業績発表時の決算説明資料より転載