マーケティングのジレンマ・・・・No.60「High Value Low Volume」
安さに惹かれて訪れる観光客だけを相手にしていると客層が下がり、顧客単価も大きくはなりません。また安さだけを目当てにした観光客が増加すれば、オーバーツーリズムの問題にも繋がります。ここで着目したいのが「High Value Low Volume(ハイバリュー・ローボリューム)」という観光戦略です。
インバウンド顧客の消費金額を増やす新たな視点
10年以上続くデフレの中で、日本の多くの企業は販売価格を安くしなければ売れないと思い込み、価格を下げて顧客を増やそうとしてきました。安く売るためにはコストを下げる必要がありますから、結果として人件費は抑えられました。
その一方、アメリカを始めとする諸外国ではこの間に物価は上昇し、外国から見た日本は「モノもサービスも安い国」になっていました。ただでさえ物価が安いのに、円の為替レートはこの3年の間に2割以上の円安になり、海外から見た割安感はさらに高まっています。
パンデミックにより日本は海外からの入国を制限していましたが、2022年10月11日に1日5万人の入国者数の上限を撤廃。外国人観光客の個人旅行を解禁して、ビザ免除も再開しました。
新型コロナウイルスの影響によりこれまで自由な行動が制約されていた反動で、旅行需要は世界で拡大しています。そこで予想されるのが「インバウンド需要」の復活です。行動制限の影響を受けて低迷していたホテルや旅館、外食などのサービス業や小売業は期待していると思います。
ここで留意したいのは、安さに惹かれて訪れる観光客だけを相手にしていると客層が下がり、顧客単価も大きくはなりません。外食やホテルの宿泊料金は欧米と比較して日本は極めて割安です。安さだけを目当てにした観光客が増加すれば、オーバーツーリズムの問題にも繋がります。
インバウンド顧客に消費してもらう金額をどうすれば増やせるか。私たちは考え直す必要があります。
「High Value Low Volume(ハイバリュー・ローボリューム)」という観光戦略があります。この考え方は誰でもいいから来てもらうという量の発想でなく、価格ではなく価値を重視する人たちを相手にする「質の発想」です。
バックパッカーが多いネパールとは対照的に、ブータンは今年9月から「観光税」を従来の3倍に当たる1日1人あたり200ドルに引き上げ、「High Value Low Volume」の観光政策に舵を切りました。
日本は万人を顧客にするマスマーケットの市場ばかりを狙ってきましたが、これからは顧客の質と利益率が共に高く、精緻にセグメントされた市場に着目する時期に来ていると思います。