マーケティングのジレンマ・・・・No.17 デパートとデパートを販路にしてきたアパレルブランドが低落していった本当の理由
COVID-19による影響が出てくる前から、多くのデパートとそこを販路に成長してきたアパレル企業が苦しんでいた。その背景には20世紀につくられた彼らの商習慣に原因があった。
デパートとデパートを販路にしてきたアパレルブランドが低落している理由は、過去の商習慣にあった
デパートが台頭した時代には、オンワード樫山、三陽商会、ワールド、レナウンといった企業も成長していった。この時代のメーカーはモノづくりに専念し、販売はデパートの販路を使い、効率よくビジネスを行うことが最善策とされた。デパートは定価販売を前提にし、メーカーはブランド価値を維持できるため、デパートへの掛け率が低くても販売価格を高くすれば利益が出た。この時、デパートとアパレルメーカーの間には、「委託販売(派遣店員付委託取引」という独特の取引慣行が生まれた。
「委託販売(派遣店員付委託取引)」とはデパートがメーカーから商品を預かり、一定の期間に販売を委託されるシステムだ。デパートの店頭で実際に販売しているのは、メーカーから派遣された販売スタッフが行い、デパート側に人的負担はない。デパートは納品されたすべての商品を一旦は買い取り、メーカーへの支払いを行う。だがその後メーカーへ返品する際は、返品分の返金の代わりに新たな納品商品を受け取って相殺する。これはデパートとメーカーとの間に生まれた日本特有の商習慣だ。
メーカーには不利な仕組みに見えるが、メーカー側もこの商習慣を利用していた面もある。期末になるとノルマを抱えた担当営業が一時的に売り上げを上るため、商品を大量に納品し、翌期になると返品処理するといった行為が行われていた。返品コストを小売価格に上乗せして納品することもあったようだ。
「委託販売(派遣店員付委託取引)」によって、デパートは品揃えと販売員の調達が楽に入手できた。だがこの仕組みは次第にデパート側に有利な取引形態となり、メーカーは厳しい値入率が負担になっていく。
デパートは小売業でありながらメーカーに販売を丸投げし、テナントから家賃を得る不動産業的存在に変質していく。またデパートとメーカーは自分たちの利益を追求するだけで、最も重要な生活者(顧客)のメリットを考えた仕組みにせずに今日に至り、日本のデパートの売上高は1991年の9兆7,130億円をピークに右肩下がりを続け、2018年は5兆8,870億円にまで縮小していく。
こうした商習慣が、デパートとそこを販路とするアパレルメーカーが苦しめられる根本的問題として浮上してくる。