マーケティングのジレンマ・・・No.3 規模の拡大が、高収益に繋がるとは限らない
小売業や外食産業は自社の店舗数を増やすことにだけに固執していては、高収益化は図れない可能性がある。
小売業や外食チェーンが陥るワナ。それは店舗数を拡大することが、収益拡大に繋がると思い込み、他者と同様に行動することだ。横並び発想を捨てれば、活路は見えてくる。
なぜ小売業や外食チェーンはどの企業も多店舗化に走るのか?
横並び発想を捨て、独自の方法論を見出した企業が存在する。
事業を拡大するために、企業が採用する戦略の中には、共通する打ち手がいくつか存在する。そのひとつが、販路(店舗数)の拡大だ。
CVS・カフェ・家電量販店・ドラッグストア・外食などの業界では、店舗数を増やして売上げを伸ばし、事業を拡大する企業が多い。海外に進出する目的も、店舗を増やして規模を拡大することを狙っていることが多い。(だが既存店全体の売上げが前年より大きく下落すると、新規店舗数を増やしても売上げの落ち込みをカバーできないこともあり、既存店舗の売上げを維持拡大することも欠かせない)
多くの企業が踏襲する過去の成功モデルを採用せず、自社で独自の戦略を推進し、高収益企業になっている企業が存在する。家電量販店市場におけるヨドバシカメラとそのECサイト「ヨドバシドットコム」だ。
家電量販店市場は、1位のヤマダ電機の売上高は1兆5,738億円、営業利益473億円、国内店舗数649店。(100%子会社のベスト電器の売上高は1,289億円、営業利益49億円、店舗数直営142店 FC175店)。2位のビッグカメラの売上高は7,906億円、営業利益243億円、国内店舗数38店。(子会社のコジマの売上高は2,327億円、営業利益32億円、店舗数139店)。3位のエディオンの売上高は6,862億円、営業利益161億円、店舗数直営425店 FC761店となっている。
この業界で業界4位のヨドバシカメラは、異彩を放つ。
ヨドバシカメラの売上高は6,805億円、営業利益606億円、直営店舗数は23店だが、経常利益率を見るとヤマダ電機が3%、ビッグカメラが3%なのに対して、ヨドバシカメラは8.9%もある。経常利益金額を見ると、業界トップ(606億円)だ。
(上記法人データは、会社四季報業界地図2019年版を参照)
●ヨドバシカメラとヨドバシドットコムの戦略ポイント
実店舗を持つ小売企業にとって、ネット通販は悩ましい問題がある。店舗を所有するので固定費(家賃や光熱費、販売員の人件費など)が掛かり、ネット通販専門企業のように身軽には動けないことだ。
実店舗の物流システムは利用できても、顧客の元に届けるラストワンマイル〔本来は「インターネット接続の最終工程のこと」を指すが、流通(物流)においては「商品の受け渡し接点(場所)」を意味する〕の配送システムやコールセンター、受発注と顧客管理を司るシステム投資には多大なコストが掛かる。さらに実店舗とネットでは売れる商品とカテゴリーに違いがあり、在庫管理の内容が異なる面がある。また実店舗では見るだけで、最安値のサイトから商品を購入するショールーミング利用が生じるため、リアルの小売業のECの取組みは遅れた。
そんな中でヨドバシカメラとヨドバシドットコムは、
●業界の競合他社が進める多店舗化という定石を踏襲せず、
●競合他社が手掛けていない草創期にECに取組み
●リアルの店舗とECサイトを最適化する独自のオムニチャネル構築を行い
●業界の覇者であるアマゾンに対抗できる付加価値サービス(ヨドバシエクストリームや梱包方法など)
などに取組み、高収益体制を実現している。同社は競合他社の経営や戦略に目を奪われることなく、自社で独自の経営戦略を立案し実践している。