世界に誇れるレベルにある日本のサービス業ですが、そこに働く人たちが厚遇されているとはいえません。その最大の理由は、「安くして、良いモノを提供する」という概念に経営者がいつまでも縛られ、可処分所得の限られた顧客を獲得するために、競合企業との争奪戦に明け暮れているからです。その目を海外に向ければ、顧客単価を千円から10万円にすることも可能になります。
日本のサービス業は、質の高い快適な時間と空間、そして行き届いたサービスを提供する「上質概念」への転換が急務
インバウンド観光客による日本国内の消費額は、その数が3千万人を超えた2019年に4兆8千億円に達しました。ところが1人当たりの旅行支出は2015年の17万6,167円をピークに減少し、2019年は15万8,531円まで減っています。「安く過ごせる日本」を求める観光客の質に影響を受けているようです。
日本政府観光局によると、2019年にヨーロッパ・アメリカ・オーストラリアなどの5ヶ国と中国から訪日した富裕層旅行者(1回の旅行で、1人当たり100万円以上を消費する旅行者)の数は訪日客全体のわずか1%です。ところがその消費額は訪日観光客全体の11.5%と、経済的な影響力が非常に大きいです。
残念なことに世界の富裕層旅行者に日本の人気は低調で、アメリカからの訪問希望先の順位は13位、ドイツでは23位に留まっています。
ヨーロッパとアメリカを始めとする観光業界では、「パンデミックによる経済的なダメージが少なかった富裕層の旅行市場がいち早く回復している」という指摘があります。また経済格差が広がる中で、世界の富裕層人口は拡大しており、100万ドル(約1億5千万円)以上の保有資産がある層は、2026年に21年比で5割以上の増加になると予測されています。
「円安による買い物メリット」「B級グルメ」「上質なのに安価なホテル」「サービス料を徴収しないホスピタリティ」だけに魅力に感じるインバウンド顧客では、顧客単価の向上は望めません。
かつての「金ピカ」発想の高級概念でなく、質の高い快適な時間と空間、そして行き届いたサービスを提供する「上質概念」に転換すれば、日本のサービス業が持つ本当の魅力をアピールできます。そうなれば、サービス業に働く人たちはさらに自信と誇りを持て、その仕事に相応しい報酬を手にできる産業になるはずです。