マーケティングのジレンマ・・・No.77 企業は思い込みでビジネスをしている
他社にない独自の事業コンセプトがありながら、事業規模が拡大して売上規模を追求するようになると、本来の事業コンセプトから外れて事業領域と顧客の幅を広げ、結果的に低迷してしまう企業があります。
「高級な宿を頻繁に利用し、年間に100万円以上を支出してくれる顧客層」に立ち返った一休ドットコム
創業者が策定した確固としたコンセプトに基づいて当初はビジネス展開していても、事業規模が拡大し売上規模を追求するようになると、本来の事業コンセプトが曖昧になり、無暗に事業領域と顧客の幅を広げてしまう企業があります。
これは結果的に競合他社と同じ土俵に立つことになり、自社の独自性や優位性を失うことに繋がります。特に売上げ向上のために、重点顧客の設定を安易に変えてしまうことは非常に危険です。
この罠に気付いて、停滞期を乗り越えた企業があります。一休です。
一休は2000年に創業者の森正文さん(2023年11月22日に肺がんのためご逝去)が「高級宿」に特化した宿泊予約サービスを展開し、2005年に当時最少人数で東証マザーズ市場に上場、2007年には東証一部に上場するという成長を続けました。ところが翌年の2008年頃から顧客数が伸び悩み始め、停滞期に入ってしまいます。
こうした状況に陥ると、せっかく他社にないコンセプトで事業を展開しているのに、その価値を希薄化させる対応策に社内が走ることがあります。業績を向上させるために、「ウェブサイトで表示される宿の数を増やす」「高級宿だけではなく、カジュアルな宿も扱う」といった意見が社内から噴出し、そうした発想に流されてしまうわけです。
そんな状況下で社長の榊淳(さかきじゅん)さんは、売上データを「顧客セグメント」毎に分類して徹底的に分析。一休のサービスを最も支持し利用してくれているのは、「高級な宿を頻繁に利用し、年間に100万円以上を支出してくれる顧客層」でした。一休の業績が停滞する中でも、確実にこの層の売り上げは伸びていたのです。
一休が重点顧客層と考えるこの層の人たちにインタビュー調査を行ったところ、「高級宿を検索し頻繁に利用しているのに、検索時に毎回カジュアルな宿が出てくるのはストレス」「一休は高級宿だけを厳選して提示するところがよい」といった声が多く集まり、社内に蔓延していた思い込みを一掃する内容でした。
参考資料:戦略転換で売上10倍、榊淳社長が語る一休に転機をもたらした「ある顧客の声」JBpress