マーケティングのジレンマ・・・No.78 「物価が安い」からではなく、「日本が本来備えている魅力」で世界から観光客が集まる国を目指す
銀座を始め東京の街にはかつてないほどインバウンド観光客が増えていますが、その理由は円安によって「物価が安い」ことが大きな要因になっています。当然のことながらオーバーツーリズムの悪影響が出ています。シティホテルに宿泊しても、食事はコンビニで済ませ、買物だけするインバウンド顧客で溢れてしまう国でよいのでしょうか。
日本が本来備えている「価値」に魅了されて、世界から人々が訪れる国に立ち返る
日本の飲食業やホテルなどのサービス産業は、高品質なサービスを提供しているにもかからわらずそこで働く人への還元率は低く、低賃金によってその高品質が支えられているというジレンマを抱えています。
パンデミックが収束し、各国政府と中央銀行が大規模な資金供給を行ったため、世界的に急激なインフレになり、各国の物価は大幅に上昇しています。そんな中で日本は大幅な「円安」に陥り、海外から見て日本の物価は極端に安くなっています。インバウンド観光客が急速に増大しているのは、日本が「物価の安い国」になっている影響が大きな要因です。
「物価が安い国」だから世界から観光客が集まるのではなく、日本が本来備えている「安全・清潔・世界に誇れるホスピタリティ・卓越した食の美味しさ・世界最古の歴史(国体を維持した)を持つ国とその歴史的遺産・自然資源など」の価値に魅了されて世界から人々が訪れる国に立ち返りたいものです。
世界中から観光客を集める国のベスト3は、フランス・スペインそしてアメリカです。
フランスは30 年以上に渡って世界で最も人気のある観光地で、エッフェル塔、世界に知られるレストラン、ルーブル美術館、ベルサイユ宮殿、ノートルダム大聖堂、コートダジュールなど数多くの観光資源があります。ちなみにルーブル美術館は欧州諸国の26歳未満の人には無料にする一方、一般の人には約3,700円を課しています。
2位のスペインもアントニ・ガウディのサグラダ・ファミリア大聖堂とその作品群、ビルバオ・グッゲンハイム美術館、アルハンブラ宮殿とヘネラリフェ庭園、ヨーロッパ最大の水族館オセアノグラフィック、グラン・カナリア島のビーチ、バルセロナのランブラス通りなどの資源があります。
参考までにハワイではダイヤモンドへッドではハワイ在住者は無料ですが、観光客には約800円、またエジプトではアラブの人たちは約200円なのに対して、外国人は約1,800円が課せされています。
観光客を集める国のベスト3を見てもわかるように、「物価が安い国」だから集客できているわけではありません。オーバーツーリズムの悪影響を避けるためにも、日本は安いからでなく、本来持っている独自の価値で世界を魅了できるはずです。
パンデミックで旅行者が激減し需要が落ち込んでいる間に、海外のハイエンドホテルチェーンはラグジュアリーホテルを日本に建設し、現在は1室10万円以上の販売価格で営業しています。こうした流れを受けて日本のホテルも値上げを始めていますが、日本人顧客の利用を考えると、外資系ホテル並みの料金にはできずにいます。高額な料金体系にすると、日本国内の利用者が使えなくなるからです。外資系ホテルが思い切った価格設定にできるのは、世界中から集客できるネット予約の仕組みを持ち、「ドル建て」という世界の相場で価格を考えているからです。
観光関連事業は旅館やホテルはもとより、飲食や土産物、タクシーやバス、観光ガイドに至るまですそ野が広く、直接事業者が料金を手に出来ます。輸出産業の場合、円安メリットがあるメーカーの場合でも資金回収に数カ月かかるため、取引先から関連事業者とその従業員の報酬に反映されるまでにはかなりタイムラグがあります。観光関連事業は資金の回収サイクルが短い点でも注目すべきです。
日本国内の利用者を失わないためには、日本国内居住者専用のメンバー制度をつくり、単発利用のインバウンド顧客と料金体系を変えるという方法もあります。国内の景気浮揚策という名目にもなり、収益性が高まればスタッフにはスキルに見合ったグローバルレベルの給与を支払うことが可能になり、結果的に国内の消費拡大と経済成長に繋がります。
「物価が安い」からではなく、「日本が本来備えている魅力」で、世界から観光客が集まる国を目指したいです。
参考資料:日本のホテルは「1泊10万円」に値上げしていい…円安日本が”インバウンドで景気回復”するための必勝法 プレジデントオンライン