マーケティングのジレンマ・・・No.8 強い老舗企業は、過去の成功に固執しない
創業から歴史がある企業は伝統を重んじ、昔ながらのビジネスや商品・サービスを提供しているように思える。だがその実態は、昔からのビジネスをそのまま続けるのではなく、時代と共に進化し、変化対応力を発揮しているから強いのだ。
時代の潮流を先読みして自社の事業を進化させることで、老舗企業は市場と顧客から継続して支持される
組織が大きくなればなるほど、社内の手続きと意思決定には時間が掛かり、構造改革や新規事業が後手に回ることがよくある。また管理職層がITやAIに代表される技術について理解力が不足し、システム化が遅れることも多い。
日本には創業から100年を超える企業が数多く存在する。東芝の創業は1875年、NEC(日本電気)は1899年、パナソニックは1918年、日立製作所は1920年で、80年を超える企業にはトヨタ自動車は1933年、富士通は1935年だ。企業が創業から歴史を重ねれば、その事業内容を自ずと変化させる必要がある。時代の潮流を先読みし、自社の事業を進化させないと、市場と顧客から継続して支持されることはない。
1911年にアメリカで生まれ1924年に現在の社名に変更したIBMの歴史は、100年を超えている。IBMはパンチカードによるデータ処理機器を開発し、その後電子計算機を世に送り出した。現金自動預け払い機(ATM)、ハードディスク、フロッピーディスク、磁気ストライプカード、リレーショナルデータベース(RDB)、SQLプログラミング言語、バーコード、DRAMなどを生み出した実績をIBMは持つ。
そんなIBMは1990年代に主力であったメインフレームがダウンサイジングの流れに巻き込まれ、その業績は急速に悪化した。1992年度には、単年度の単一企業による損失額としてはアメリカ史上最悪といわれる49億7000万ドル(日本円で約5,470億7千364万4,600円)の損失を計上した。IBMはこれ以降ハードウエア事業から、ソフトウエアとサービスへ事業の主体を転換する。同時に終身雇用制度を見直し、最盛期には全世界で40万人いた社員を22万人まで削減する。
IBMはこうしてコモディティ市場を脱出し、コンピューター関連サービスとコンサルティング、ソフトウエア、ハードウエアの開発・製造・販売・保守とファイナンシング、メインフレームコンピューターからナノテクノロジーに至る分野でサービスを提供し、現在活躍している。同社にはAIではワトソンがあり、ヘルスケアや量子コンピューターの分野でも先行している。IBMは優秀な大学生やベンチャー企業と交流し、そこから新たな技術を取り入れる仕組みを昔から持っていた。
創業から歴史のあるIBMは、古いままではないから現在がある。