マーケティングのジレンマ・・・No.86 大衆が群がる市場で、誰も気づかずにいたそこに隣接する新たな市場を発見した視点

多くの人たちが集まる市場は魅力的です。しかしそこでビジネスを行い収益を上げようとしても、一過性のブームだった場合には市場は霧散してしまいます。また市場規模が大きいと競合企業が多数参入し、競争は激化して生き残るのは大変です。しかしその市場に隣接する潜在的な市場を見つけ、いち早くその市場を育成すると、独自の市場とブランドが創造できるという好例がここにあります。
潜在していた新市場を見つけて、成功するための視点
アメリカのカリフォルニア州サクラメントで、土地開拓の主任担当者が川で砂金を見つけたことから、「川で金が採れる」という噂がアメリカ全土に広まり、一攫(かく)千金を狙って多くの人々が集まりました。当時2万人程度だったサクラメントの人口は、約20倍の40万人程度にまで急増します。これが1848年に起きた『ゴールドラッシュ』です。
砂金目当てに集まる人の数は非常に多く、その一方で川底をさらって手に入る金の量はわずかですから、ほとんどの人には一攫千金など夢でしかありません。
そんな中、このゴールドラッシュで多くの人たちが「金」に目がくらんでいた時に、誰も気づかずにいた隣接した場所に、新たな市場が拡大していることに着目して巨万の富を築いた若者がいました。しかも現在でもそのブランドは存続しています。その若者こそドイツから移民としてアメリカにやってきたリーバイ・ストラウス(Levi Strauss)です。
衣類を取り扱う雑貨商をしていた彼のもとには、金鉱で働く人たちから「破れにくく丈夫で、洗いやすく、馬にも跨りやすいデザインのズボン」が欲しいという要望が数多く集まり、そこで生まれたのがジーンズの前身となるワークパンツです。
当初はキャンバス地が使われていましたが、その後素材はデニムに変更され、害虫を寄せ付けないインディゴ染料によるインディゴ・ブルーが採用されました。こうした工夫を重ねて、何十万人もの人々が求める新市場が創造されました。これが現在も根強い人気を誇っている「リーバイス501」です。
1800年代から1900年初頭までジーンズは“労働者のための服”として普及していきました。それが現在ではファッショナブルなアイテムとして定着しています。
多くの人たちが「金」に目を奪われている中で、リーバイ・ストラウスだけはそこに隣接し潜在していた新市場を見つけ、市場を育成することに成功しました。私たちが新市場を見つける際にも、非常に参考になる視点です。