マーケティングのジレンマ・・・No.9 モノづくりの成功体験が、プラットフォームを創造する発想を阻害した
80年代にモノづくりでは日本の後塵を拝したアメリカが、その後、プラットフォームというビジネスモデルを生み出していった経緯をここで振り返ると、現在日本が直面して問題が見えてくる。
モノづくりを念頭に置いた日本企業は、新たな社会基盤となるプラットフォームを創出しようとする概念が希薄だったため、その取組みは後手に回った。
20世紀にモノづくりで台頭した日本企業は、高品質な製品を安価に提供する仕組みづくりに成功し、その地位を磐石なものにしてきた。当時の日本企業の発想は、「モノをつくって販売する」概念であり、「いかに良い製品をつくるか」、また「それらをいかにたくさん販売するか」という視点でビジネスに取組んできた。
またマーケティングの研究や理論も、その流れを踏襲していた。経営戦略論研究の第一人者であるマイケル・ポーターが提唱した「価値連鎖(Value Chain)」※1なども、製造業に主眼を置いた「サプライヤー →企業 → 販売業者 → 生活者」という『バリューチェーン』の重要性とその効率化を提唱したものといえる。
同時に取引先にマーケティング機能を提供する企業(広告代理店やコンサルティング会社など)やITの機能を提供する会社も同様に、取引先が求める役割と機能を提供してきた。例えば、「モノを売る機能」「顧客をつくる機能」「ネットを使って情報を発信する機能」「顧客に継続的な利用を促す機能」「オンラインからオフラインに顧客を誘導する機能」「顧客との関係性を強化し、顧客満足を最大化する機能」「顧客生涯価値(ライフ・タイム・バリュー)を向上する機能」など、短期的に企業の収益向上につながる『戦術支援』が中心だった。
こうしたモノづくりに起点をおいた戦術的発想の中では、新たな社会基盤となるプラットフォームを創出しようとする概念は、日本の企業側とそれを支援する組織の双方に希薄だった。モノを製造するのが本流で、ITやAIなどはモノづくりを補完する機能だとする概念がその底流に流れていたように思える。
80年代にモノづくりでは日本の後塵を拝したアメリカが、その後、プラットフォームというビジネスモデルを生み出していった経緯を振り返ると合点がゆく。
※1価値連鎖 マイケル・ポーターの著書「競争優位の戦略(1985年 ダイヤモンド社刊)」に登場した概念。