価値のジレンマ・・・・No.35 寡黙でいることは敗者になる
シリアやミャンマーでは今も紛争が続いているのに、世の中の関心は高まりを見せていません。ところがウクライナに関する報道はマスメディアでもネット上でも日々コンテンツがアップされ、世界の眼が向けられています。この違いはどこで生まれるのでしょうか。
日本を好ましく思わない国々が仕掛けてくる情報戦に、日本が敗者にならないために必要なこと
シリアやミャンマーでは今も紛争が続いていますが、日本ではこうした国々の報道は限られ、世の中の関心は高まりを見せてはいません。ところがウクライナに関する報道はマスメディアはもとよりYouTubeを始めとするネット上でも日々コンテンツがアップされ、世界の眼が向けられています。
今回ロシアによって引き起こされた戦争は、情報戦の側面が大きいことが指摘でます。中でも西側諸国の支援を得てウクライナが善戦しているひとつの要因に、カーキ色のTシャツに無精ひげでゼレンスキー大統領が各国に対して行った演説の力があります。
海外の首脳としてゼレンスキー大統領が初めて演説が行なったイギリス議会では、チャーチル元首相が第2次世界大戦でナチスドイツと戦った際に行なわれた歴史的演説、「我々は海外で戦う、我々は水際で戦う、我々は平原と市街で戦う、我々は丘で戦う。我々は決して降伏しない」から一部を引用脚色し、「我々は海で、空で戦い、どれだけ犠牲を出しても領土を守る。森の中で、野原で、海岸で、都市や村で、通りで、丘でも戦い続ける」と訴えました。イギリス議会はスタンディングオベーションでこの演説に応えました。
またアメリカ議会の演説ではアメリカ人が心の拠り所にしている「democracy(民主主義)」「独立(independence)」「freedom(自由)」という独立宣言で使われた言葉が引用され、さらにマーティン・ルーサー・キング牧師の「I have a dream」から着想し、ゼレンスキー大統領は「I have a need.」と訴えています。
演説の原稿は作成に多大な時間と労力を必要とするため、多くの要人たちにはスピーチライターがいます。英紙オブザーバーによるとスピーチライターの一人は、週刊誌でコラムニストとして働いていた元ジャーナリストで、政治アナリストのドミトロ・リトヴィン氏(38歳)です。
ドミトロ・リトヴィン氏によって作られたスピーチ原稿は、その国の歴史や国民感情を徹底的に調べた上で作られていることがわかります。
ロシアの情報機関FSBは、かつてはトランプ支持者などに向けてフェイクニュースを流していましたが、近年はファクトチェックが行われるため、その効果がなくなりつつあります。ウクライナでの戦争が始まってからは英語のコンテンツは減り、ロシア語の発信が増えています。この背景には、ロシアが国内の情報統制にシフトしているという指摘があります。
日本を好ましく思わない国々が仕掛けてくる情報戦に、私たちが寡黙でいることは日本が敗者になることを教えてくれています。