若い世代の安定志向、プライベート重視が顕著になっている。企業の成長を考えるとき、このような社員ばかりを採用していては不安が残る。企業の成長には、顧客に愛され、市場を開拓できるビジネスセンスを持った戦力が必要だ。商才のある人材をいかに見抜き、獲得するかが企業の命運を握る。
大学生に聞く、「実現したい最高年収」
大学生の就職先希望のランキング調査を見ると、未来を占う上でいつも示唆に富んだ発見がある。今回は「第3回『大学1、2年生が就職したいと思う企業・業種ランキング』調査」(リスクモンスター調べ、2017年)をチェックしてみよう。主な調査データは、下記の通りだった。
「就職したいと思う企業・業種」のランキングでは、
1位「地方公務員」(回答率8.8%)
2位「国家公務員」(同7.2%)
3位「任天堂」「日本航空(JAL)」(同4.0%)
5位「Google」(同3.6%)
6位「明治」、「アップル(Apple)」(同3.2%)
となった。
2016年に実施された前回調査結果と比較しても、1位「地方公務員」、2位「国家公務員」に変化はない。「就職したい企業を選択した理由(自由回答)」をたずねた設問では、1位の「地方公務員」については、「安定している」、「地元の地域に貢献したい」という回答が多く、2位の「国家公務員」では、「安定している」、「日本のために貢献したい」という回答が多くなった。
「就職したい業種」を見ると、
1位「公的機関・その他」(回答率41.0%)
2位「エンタメ・レジャー」(同20.2%)
3位「生活用品・サービス」(同19.6%)
となり、
一方、「就職したくない業種」は、
1位が「小売・外食」(回答率13.4%)
2位が「自動車・重機械」(同8.8%)
3位が「運輸・物流」(同7.6%)
となっている。
「将来望む就業の形」としては、
1位「やりがいのある仕事をしたい」(回答率34.2%)
2位「プライベートを優先させたい」(同19.6%)
3位「優良企業で安定的に働きたい」(同17.6%)
となった。1年生の男性では、「出世して高収入を得たい」という意向が強い傾向が出た。
「就職先の選定において気になる点」という設問では、
1位「給与額」(回答率47.4%)
2位「残業時間」(同29.8%)
3位「雇用形態」(同29.6%)
で「給与額」の割合の高さが際立つ結果となり、学年別、男女別、文理別でも同じ結果になっている。
「『給与額』について、最低限実現したい生涯最高年収」の調査では、
1位「500万円以上600万円未満」(回答率18.2%)
2位「400万円以上500万円未満」(同14.2%)
3位「1000万円以上1500万円未満」(同10.4%)
となった。
民間企業の平均年収が420万円(国税庁2015年データ)になっているせいか「400万円以上600万円未満」に全体の3割近くの回答があり(回答率32.4%)、1000万円以上の高収入を志向する学生(同22.2%)を上回っており、最低限平均年収を超えればよいと考えている学生が多く存在している。
「大学生の安定志向」が抱えるリスク
このアンケートの結果からは、大学1、2年生は、「安定している職業」の代表格である公務員の人気が高い。就業においては、「優良企業で、やりがいのある仕事をしながら、プライベートも大事にしたい」という願望が強く、「給与額」では、約3割の学生が平均年収(420万円)程度の「400万円以上600万円未満」の安定収入が得られればよいという姿勢が主流となった。
バブル経済の終焉後、日本経済は低成長社会に突入してから、就職事情は長らく好転せず、その間に非正規社員が増大し、給与所得が増えない状況が長く続いた。そのため大学生の就職意識は萎縮し、いわゆる「安定志向」が強まったことは否めない。だが、国や地方自治体はもとより、「安定している組織」にいて、「プライベートを優先」させて働く人材ばかりでは、企業は飛躍するどころか停滞するリスクを抱えてしまう。
企業には「商才」を備えた人材が欠かせない
企業が飛躍していくには、「顧客」を創造し、「市場を拡大」していくことが不可欠だ。経営者と社員それぞれが、顧客と市場を創造する力を備えていることが、飛躍する企業の必須条件だといえる。この適性を、日本では「商才」と呼んできた。
大辞林が「商才とは商売で成功するのに必要な才能」だと解説するように、企業が成長するには、商才を備えた人材が欠かせないことはいうまでもない。だが近年商才のある人材が減っているように見える。
その背景には、次のような成熟社会特有の問題が滞積していた。
1、給与所得者(サラリーマン)の世帯が大半を占めるようになり、事業を行っている親を持つ子供が減った。
2、景気後退によって就職事情が悪化して非正規雇用者が増大し、大企業でも倒産や吸収合併される事態が頻発したため、就職先は安定していることを最優先に考える若者が増えた。
3、学歴偏重の人事採用により、異才のある人材を登用しない日本企業が増えてしまった。
4、与えられた「作業」をこなすことが「仕事」だと思い込む人材が増えた。
5、企業が収益を上げる意味や目的を理解せずに働く人が増えた
6、自ら営業活動ができない人や管理者が増えた。
「頭がいい」=「商才がある」ではない
上場企業に働く社員はほぼ全員が、いい学校を出た、いわゆる頭のいい人材が揃っている。そうした頭のいい人材が多いにもかかわらず、その多くは凡庸な地位で一生を終わり、また多くの大企業で停滞や衰退が始まるのはなぜだろう。その原因を探ると、頭のいい人には特有の弱点がいくつか存在していることが浮上する。
1、偏差値の高い学校を出たことで、そうでない人を見下してしまう傾向がある。
2、思慮深いことが災いし、何かを始める前にその先のことまで考えて臆病になり、ためらい、行動に移せないことが増える。
3、人の力をはかる尺度が「実務遂行の能力」よりも「机上の頭のよさ」に重きを置いてしまう。
4、仕事だけの関係で人と付き合うため、取引先と協力会社のどちらからも慕われない。
ドラッカーが「頭のよさは成果の上限を規定するだけで、成果を出す能力とは関係がない」と指摘していたことを、ここで思い出す。
採用で「商才がある人」を見つける方法
今や希少となった「商才を備えた人材」を観察し分析してみると、そういった人材を見抜くポイントがいくつか見つかる。次の10の適性のうち、いくつ持っているかをチェックすれば、相手に商才があるかどうかをはかる手掛かりになるはずだ。社員を採用する際や、社員を幹部に登用するときなどに活用してみてはどうだろう。もちろん、多ければ多いほどいい。
1、親が商売やビジネスをしていて、親が働く姿を子供時代から見ており、腰を低くして人に頭を下げることを当り前に生きてきた。
商才が磨かれるには、子供時代から商売をする親の背中を見て育ったどうかが、重要な役割を果たす。「いつもご利用いただき、ありがとうございます」「どうかまたのご利用を心よりお待ち申し上げております」といった感謝の言葉を絶えず口にし、いつも顧客に頭を下げている親の姿を見て育てば、子供もそうすることが当り前だと思い、自然に腰を低くして人に相対することができる。
2、子供から学生までの間に、何かしら収益を上げる楽しさや面白さを実体験している。
文化祭の模擬店で収益を上げる面白さを経験したり、ゼミの打ち上げで利用する飲食店と交渉してその力量を見込まれて在学中に働く経験を積んだりするなど、学生時代にビジネスする面白さについて何かしら身をもって体験している人が多い。これは与えられた「作業」を単にこなすアルバイト仕事とは異なる経験だ。
3、可愛げがあり、年上の人から可愛がられる。
人に慕われ親しみを持たれやすいキャラクターの持ち主で、可愛げがある若者として、学生時代から年上の人たちからかわいがられて来ている。若者ながら、歳の離れた大人の知り合いが多い。またサラリーマンよりも経営者や自営業者、フリーランス(個人事業主)の友人知人が多いことも特長だ。
4、学んだことは、すぐに実践する
学校や書籍で学んだことは頭の中だけに留めておかず、自分でできることはすぐに実践する行動派が多い。理論は実践してこそ価値があることを自身で知っている。
5、観察力に長けており、人の気持ちを察することができる
周囲で起こっていることに敏感に反応し、相手の気持ちや立場を素早く察することができる。奉仕精神に富んでいる。
6、よく気がつき、会話力があるので、飲食店などですぐに顔を覚えられる
相手に気遣いができ、気の利いた会話ができるので、サービス業のスタッフなどにすぐに顔を覚えてもらえる。そのため相手から厚遇を受けることもある。
7、メールや手紙の文章表現をなおざりにしない
メールや手紙を送る際に紋切りの表現やありきたりの定型文でなく、独自の文章表現などの工夫をするので、もらった相手の記憶に残る。年賀状やSNSでやり取りする相手が年毎に増えていく傾向がある。
8、まめに連絡を取り、お土産を持参するなど、関係を強化することをいとわない
尊敬する目上の人などにはまめに連絡を取り、逢う時には手土産を持参するなど、関係を強化する行為をさりげなく行っている。恩人を大事にしている。
9、自分は運がよいと、自身で信じている
どちらかといえば楽天的で、自分は運がよいと自身で信じている。
10、約束を守り、義理堅い
小さな約束でも守り、良くしてもらったりチャンスを与えてもらったりした人のことは時間が経過しても忘れずにいる。誕生日など記念日には、必ずお祝いのメッセージを届けている。長野県上田市にある前山寺の石碑に刻まれた「かけた情けは水に流せ 受けた恩は石に刻め」の言葉のように行動し、日頃から他人に「与えること(give)」を実践している。
第3回「大学1、2年生が就職したいと思う企業・業種ランキング」調査の調査概要
調査元/リスクモンスター、調査方法/インターネット調査、調査エリア/全国、期間/2017年6月21日(水)~6月26日(月)、調査対象者/大学1年生および2年生の男女個人、調査対象企業と選定方法/各業界の大手企業・組織200社を抽出、有効回収数/500サンプル