コラム

将来に大きな差を生む、電車での過ごし方

それはもちろん、スマホじゃない!

掲載URL:http://president.jp/articles/-/24845

コラム プレジデントオンライン

トレンドを読み、ニーズを先取りできた会社は、大きな利益を得ることができる。それはたいてい、調査データの分析結果から生まれたものではなく、観察眼のある1人の経営者、もしくは社員の力によるものだ。ビジネスの観察眼は、どのように磨かれるのだろう――。

同じモノを見ても、結果が違う

過日、日本を代表する企業の経営者と対談した折に、この経営者は「時代を感じて、時代を読む力が何より重要だ」と指摘され、加えて「変化を先取りするために、毎年ニューヨークには必ず出掛ける」と言われた。「時代を感じて、時代を読む」には、人と会って話を聞くなり、メディアを通じて学びを得たりすることが必要だが、何より欠かせないのは、自身の観察眼を磨いて「社会」を見ることだろう。

 

面白いことに、同じモノや同じコトを見ていても、人によって、そこから得るものや学習する内容は大きく異なる。仕事ができる人は、観察眼が鋭く、予兆を察知する能力が高い。観察眼を備えた人は、普通の人が気づかずに通りすぎてしまうトレンドや流行、隠れた消費傾向や消費動向を、あらゆる出来事の中から読み取っていく。この観察眼は、どのように生まれ、育まれていくのか。

 

ただ、社会の現象を読み取るだけでは、観察眼は身につかない。そこには、あるものが必要だ。

観察眼のある人は、何を見ているのか

「なぜ、この商品が売れたのか」

「どうして顧客は人気だった業態に飽きてしまったのか」

「生活者は、新しい消費行動をどこで起こしているのか」

 

こうしたビジネス上の課題を、日々自分に問い掛け、世の中の社会現象や生活者の行動を日々観察し、そこから学習していける人のことを「問題意識が高い人」と呼ぶ。優秀なリーダーは、いつも「問題意識」を自身の中で温め、「今、われわれ(自分)は何をすべきか」を自身に問いかける。

 

そして、自らの「問題意識」を自分の中だけでなく周囲の人にも伝え、広く意見を求めていく。こうすることで、本人が予想もしなかった考え方や賛同者(あるいは反対者)に出会い、自分の考えをさらに深めていける。

 

かつて、「現状を分析し、問題点を明確にした上で、課題を設定する」という「分析型アプローチ」を重視する時代があった。分析型アプローチは、客観的な根拠にもとづいて組織を動かす上で必要だが、分析だけで人は動かない。分析が精緻にされていても、担当者に「問題意識」がないと、誰の心も打たず、単なる分析で終わってしまうという面があった。

 

つまり、観察眼のベースは「問題意識」にある。

もし、デパート駐車場で待つとしたら

仕事ができる人は、いつも「問題意識」を持っている。逆に、「問題意識」さえ持っていれば、観察眼は、誰でも、どこでも磨くことができる。そこに差が出るとすれば、実践する「視点」と「具体的な方法」の違いだ。下記の問いを考えてから、読み進めてほしい。

 

Q.銀座(他の街でもよい)のデパートに用事ができ、クルマで出かけた。あいにく駐車場は満車で、駐車場の入口で20分ほど待つと係員に告げられた。このまま待つとして、あなたなら何をして時間をつぶすだろうか。

 

このシチュエーションで、「どういった人が、デパートで買い物をしているのか」といった問題意識を持ったとして、次のような視点で観察することができる。

 

▼どの世代の人が、誰と訪れているか

銀座の場合なら、30代の子供連れ(幼児)の女性とその母親の利用が多い。買い物の費用は、母親が負担している可能性がある。

 

▼どこから来ているのか

ナンバープレートを見れば、都内はもとより、東京近郊の千葉や神奈川など30キロ商圏から来ている顧客が多いことなどがわかる。遠方からやってくる人はオシャレに力が入り、ドレスアップしてくることが多い。逆に近隣なら、カジュアルウエアを身にまとった人が多くなる。

デパートに入店したら、男と女を見る

デパートに入店したあと、「デパートでの、男性と女性、それぞれの行動パターン」「どのブランドにどんな顧客がいるのか」といった問題意識を持ったとしたら、次のような視点で観察ができる。

 

▼男性の買い物と、女性の買い物では、どこに違うか

男性は女性と違い、ウインドーショッピングをあまりしない。男性の買い物には目的(目的来店)があり、来店すれば、モノを購入する確率が高い。ウインドーショッピングだけで帰る女性顧客とは、この点が違う。

 

▼女性用ファッション売り場で、ブランドの動向を把握する

顧客が身につけているアウターウエア、持っている靴やバッグなどからライフスタイルを想像しつつ、どんなファッションテイストの人が、どのブランドを選んで購入しているかを観察する。ブランドはそのテイストによって市場を棲み分けしており、顧客もブランドによって分ける。こういうタイプの顧客にはこのブランド、こういうタイプだとこのブランドは選ばない、といったことを肌で理解できるようになる。

 

観察が勉強になるのは、買い物のときだけではない。たとえば、電車に乗ったときもそうだ。

電車ですぐスマホではなく……

大型ショッピングセンターの駐車場で、妻や家族が買い物している間、クルマの中で昼寝をしている男性を見かける。前夜、就寝したのが遅くて、仮眠を取っているのかもしれないが、その多くは妻の買い物に付き合いたくない、あるいは買い物が嫌いという人だろう。電車や地下鉄に乗り込むと、すかさずスマートフォンを取り出し、ゲームをしたりSNSを見たり、LINEやメッセンジャーでやり取りする人がいる。こういった時間の過ごし方が、一般的なのだろう。

 

だが、観察眼を磨いている人は、問題意識を持った上で家人や友人の買い物に付き合い、なぜその商品を購入したのか、その理由や背景を日々探っている。公共交通機関を利用するときは、乗り込んでくる人たちのファッションや持ち物を観察し、そこからトレンドを探っている。安価で人気のイタリア料理のレストランチェーンや焼き鳥チェーンのことを耳にすれば、実際に自分で利用し、顧客層とそのタイプを見ながら、人気の理由を探っている。

 

問題意識を高め、観察眼を磨けば、新たな気づきや潜在的ニーズを発見できるようになる。自ら「仮説」を立て、立証していけるようにもなる。調査結果からしか判断できない人とは、ここで大きな差がつく。定量調査は、過去を知るバックミラーだといわれる。過去を分析しただけで、未来がつかめるとは限らない。にもかかわらず、なぜ多くのビジネスパーソンは調査データだけで物事を判断しようとするのか。

 

それは、まず問題意識を持っておらず、観察眼を通じて学んだ実態や未来を予測する力、そして顧客の消費心理を肌で感じる皮膚感を備えていない人が、ビジネス界には多いという証だろう。