コラム

小さくても優秀な社員が集まる会社の秘密

採用の武器は自社に埋もれている!

掲載URL:http://president.jp/articles/-/23479

コラム プレジデントオンライン
社長の参謀ブログ

実に悩ましい人手不足問題。高齢者や外国人を視野に入れたり、就業時間を弾力的にしたりと採用ルールを整えることが肝要です。しかし、「社内体制の整備だけでは、求める人材は集まらない」と当ブログのアドバイザーでマーケティングコンサルタントの酒井光雄氏が指摘します。(全2回、後編)

"真摯な企業活動"がネットで拡散される会社

企業経営者の「意識改革」や「社内体制の整備」は人材採用の前提条件だが、この条件を満たした後に、企業が取り組まなければならない施策がある。それが「企業ブランド力の向上」と「広報活動の強化」だ。

 

いかに企業規模が小さくても、優秀な人材が集まる企業は存在する。事業の将来性が第三者から見て期待されることは言うまでもないが、人が集まる企業は「価格の安さ」で競うのではなく、価格が高くても顧客から『価値』で選ばれる『ブランド力』を発揮する企業であり、価値のある商品やサービスを提供している。

 

また、人材が集まる企業は広告を投入していなくても、心ある人たちにその存在が知られている。真摯な企業活動や注目される商品・サービスがテレビ番組や活字メディアの記事として紹介され、Facebookに代表されるSNSやブログのコンテンツとして、ネット上に当該企業の情報が拡散しているからだ。

 

マスメディアしか存在しない時代には、企業の知名度を高めるには大規模な広告予算が拠出できる大企業が有利で、「誰もがその企業名を知っていると」いう知名度が、企業を評価する尺度になっていた。

 

だがインターネットが登場し、情報は自ら検索して必要なコンテンツを手に入れる情報検索社会になると、知名度だけでなく、ネット上に情報があふれる企業が注目されるようになってきた。世界的に知名度の高い巨大企業が経営危機に陥り、あるいは消滅している社会構造の変化が、人々の企業を見る目を変えつつある。

どうすれば“企業ブランド力”は上がるのか

本来、企業のブランド力は、事業活動と同様に時間を掛けて着実に向上させていく「見えざる知的資産」だが、人材不足が深刻な企業の時間的余裕は限られているだろう。

 

こうした場合には、自社の価値を「見える化」する施策から着手し、「ブランド資源」を増やしていくことから始める。ブランド価値を高めるために必要となる資源は、実は企業には無数に存在している。

 

例えば、次のようなものだ。

 

▼探せば見つかる「ブランド資源」

「人」=男性社員や女性社員、外国人社員、経営者…

「モノ」=商品、サービス、店舗、オフィス、工場…

「デザイン」=社屋、オフィス、商品、ユニフォーム、ホームページ、社用車、社用文具…

「ノウハウ」=技術、特許、実用新案、知的資産、発表論文、自社で刊行した書籍…

「コト」=歴史、実績、海外進出、独自のイベント開催…

「立地」=メイドインジャパン・東京や京都といった立地条件…

「情報」=過去にメディアの番組や記事、ネット上で紹介された内容とその履歴…

「評価」=受賞や表彰、愛用者やプロからの賞賛…

「顧客」=熱烈なファンの声、顧客の質の高さ、著名人の愛用者…

なぜ、和服の店はグルメツアーを開催したのか

山陰地方で和服の小売業を営むある企業は、長期低落傾向が強い呉服業界にありながら、毎年順調に売り上げを伸ばし、若手社員も雇用できている。この企業がブランド価値を向上させるために取り組んだ施策は、次の通りだ。

 

1、本社機能も兼ねた本店を、「洗練された内外装による路面店」としてつくりあげた

ショッピングセンター(以下、SC)内にあった本店(販売店と本社を兼ねる)を、立地条件の良い場所に、洗練された内外装デザインを施した路面店をつくって出店した。土地は賃貸にしてSC時代の家賃よりも安価にして固定費負担を減らしながら、企業訪問する学生たちに自社の魅力を「見える化」させ、大きな効果を上げた。

 

2、顧客に「和服で出掛ける機会と場所を提供」し続け、需要を創造した

山陰地方の街では女性たちが和服を着て出掛ける機会や場所が限られており、これが和服の需要を低下させていることに同社は気づいた。そこで自社の顧客が着物を着て出掛ける機会として、クラシックコンサートや小旅行、クリスマスパーティ、グルメツアーなどを自社で定期的に開催。顧客の案内役は、和装した社員が務めている。この取り組みにより既存顧客の購入頻度が高まり、新規顧客の開拓につながっている。さらに市場を創造するこうした取り組みが、人材を集める同社のニュースになっている。

 

もう一例挙げよう。自社工場を「見える化」し、顧客開拓と人材募集につなげる地方の飲料メーカーのケースだ。着替えをせずにいつでも本社工場を見学できるように、製造ラインとはガラス張りで遮断された見学専用通路をつくり、企業訪問を積極的に受け入れるようにした。清潔で安全な製造ラインを視察した見学者は納得し、OEM(Original Equipment Manufacture=相手先の企業名による製造委託)受注や共同開発案件を成約させることにつなげ、工場で働く人材獲得にも効果を上げている。

“広報”活動と“広告”活動とは別のもの

自社の「ブランド資源」を生み出しながら、次に経営者が取り組むべき施策が、「広報活動」だ。広報活動は、広告活動とは大きく異なる。広告はお金を出してメディアのスペースを買い、そこで自社のアピールを行う。資金さえあればどの企業でも広告は実施できるが、その効果は資金力に左右される。

 

一方、広報活動はテレビ(CS、BS、CATVなど)、ラジオ、新聞、雑誌、メディア各社が運営しているオンラインサイト(プレジデント・オンラインなど)、FacebookやブログなどのSNSなどに紹介されるように働き掛ける活動で、基本的に広告のような費用は掛からない。

 

だが番組や記事にふさわしいニュース性や話題性を備えていなければ、企業の情報は紹介されない。どうすれば報道され、あるいは紹介されてネット上に拡散し、情報が連鎖的に広がるか(これを情報連鎖と呼ぶ)が広報活動の肝になるわけだ。

誰に、どんな情報を届ければいいか

自社の情報を発信するには多様な方法があるが、代表的な取り組み方法は以下のようになる。

 

書籍や雑誌などに成功している企業事例として掲載されるように、自社の取り組みを取りまとめた報道用資料を送り、学者や専門家、ジャーナリストに働き掛ける。

自社のニュースを世の中から注目されるように加工してニュースレターをつくり、メディアや取引先に定期的に配布する。

連載コラムの執筆者や番組のナビゲーター、人気のあるブロガーなどに、事例として取り上げてもらえるように自社の情報を加工して届ける。

自社のブランド資源を読み物として面白く読んでもらえるように編集し、自社のホームページ(以下、HP)に恒常的にアップし、更新していく。

自社の取組みや商品機能を誰もが興味を持つように動画として編集し、YouTubeに継続的にアップしていく。

自社のFacebookページをつくり、毎週注目されるようにコンテンツをつくって発信していく。

顧客との心温まるやり取りや、顧客から届いたお礼状などを自社のHPにアップし、顧客を大切にする企業イメージ資源にする。

メディアからの取材や顧客からの問い合わせの窓口となる広報部門や広報担当者を社内に設ける。担当者は自社の情報を紹介して欲しい具体的な媒体名(例えば雑誌名と記事のコーナー名など)を洗い出してリスト化し、ニュースレターを送付していく。

過去に報道してくれ、あるいは自社を紹介してくれた担当者には、新商品が発売されるたびにサンプルを提供するなど、ジャーナリストと友好的な関係を継続できるように対応する。

ジャーナリストや著名な専門家が講演やセミナーを開催する際には、経営者自らが参加し、そこで関係づくりを行う。

自治体にある記者クラブで自社のニュースレターを配布させてもらえるように、地元自治体の広報担当者に働き掛ける。

地元の大学や大学院、専門学校で自社に関係する研究や教鞭をとっている教授を調べ、共同研究を依頼したり、自社の技術情報を提供したりして関係を強化し、生徒の就職先として紹介してもらう。こうした取り組みもニュースソースとして広報活動に活用する

“人材募集広告を行う必要がない”というステージ

企業が自社のブランド力を強め、ブランド資源をニュースソースにしてメディアやネットに自社情報が拡散する広報活動に着手すれば、人材は必ず集まるようになる。さらにこうした取り組みは新規顧客の開拓にも寄与するため、企業としての魅力がさらに高まり、企業の成長へと繋がっていく。

 

繰り返しになるが、社内の受け入れ体制を整備するだけは、人は集まって来ない。自社で誇れるブランド資源を見える化し、その魅力を人々に知られるように広報活動に取り組んでこそ、求める人材が集まるようになる。

 

本気になってこの取り組みを実践すれば、人材募集の広告を行う必要はなくなる。入社を希望する人材が、自ら企業の門戸を叩いてくれるようになるからだ。