どんな仕事に就けばよいか、どんな会社を選べばよいか。あなたは、息子や娘、孫に自信を持って助言できるだろうか。就職に有利な大学から大企業へ進めば、安定した人生を送れる時代が続いたが、今は状況が違う。AIやロボットの進化を踏まえ、時代に合ったアドバイスをするための視点とは。
大企業が消え、銀行員が数万人消える
誰もがその名を知る大企業なら「安定」していて「待遇」もよく、一生安泰だとする価値観が支配的だった。だがそんな過去のセオリーなど通用しなくなって久しい。
世界から評価を受けていた日本の家電業界を見ると、三洋電機はパナソニックに吸収合併され、シャープは台湾の鴻海精密工業の傘下に入った。アップルの躍進により富士通、NEC、パナソニックなど国内の携帯電話メーカーは市場から撤退した。
三菱自動車は燃費データの改ざんにより、日産自動車の傘下に入ることになり、東芝は不正会計に経営がゆらぎ、神戸製鋼の検査データの改ざんが露見するなど大企業の不祥事や経営不振が立て続けに起こっている。業界によっては事業の撤退や縮小で、大幅な人員の削減や希望退職が奨励されている。
エリートと呼ばれる人の多くが選んだ業界といえば、銀行だった。だが、ここでも大きな地殻変動が起きている。みずほ銀行は、2026年度までにグループの社員数を1万9000人削減し、現在約7万9,000人から6万人に減らす。また店舗も統廃合して、現在約500の店舗を2024年度末までに約100拠点を減らす計画だ。三菱東京UFJ銀行は、国内にある約480店舗のうち1~2割の統廃合を検討し、現在約3万人いる社員の30%に当たる9500人分の業務を削減する。三井住友銀行は、2020年度までに4000人分の業務を削減すると発表している。
国内に加え、海外でも収益を上げている3大メガバンクでさえこれだけ人員削減が必要になるのだから、国内市場だけを相手にする地方銀行の先行きはさらに厳しい。AI(人工知能)とフィンテック(finance+technologyの造語で金融とITを融合させた金融工学分野の技術革新のこと)によって行員の仕事は次第に代替されていき、事務処理やコールセンター、店舗窓口での顧客担当といった銀行員が不要になる時代がそこまで来ている。
約半分の仕事は、ロボットに置き換え可能
英・オックスフォード大学でAIなどの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授が、同大学のカール・ベネディクト・フライ研究員とともに著した『雇用の未来 コンピューター化によって仕事は失われるのか』という研究論文が注目され、ロボットなどの機械やAIによってなくなる職業ランキングが発表され、反響を呼んだ。
オズボーン准教授がコンピューターに代替される確率が90%以上だと指摘した仕事には、小売店販売員、会計士、一般事務員、セールスマン、一般秘書、カウンター接客係、レジ・切符販売、荷物の箱詰め・積み下ろし作業員、金融取引記録保全員、大型トラック・ローリー車の運転手、コールセンター・施設の案内係、乗用車・バンの運転手などがある。
だが、このランキングはアメリカ労働省のデータに基づいて、702の職種で今後どれだけコンピューターなどの技術によって自動化されるかを分析しているため、日本に当てはまらないものが存在する。そこで野村総合研究所がオズボーン准教授と同じ方法で、日本の職業を分析した。
野村総合研究所の分析結果では、日本の職業の49%は10~20年後にはAIやロボットによって代替が可能になるとされる。さらにオズボーン准教授は日本の職業で機械やAIに代替される可能性が高い職業として、会計監査員、税務職員、行政書士、弁理士などの可能性が高く、翻訳や司書はその中間に該当し、雑誌記者、中学校教員、弁護士、歯科医師などは代替リスクが低いと指摘した。
今回の研究で代替されにくいとされた職業は、非定型業務で意思決定者のような職務と、人間にしかできない仕事だ。その一方、事務などのホワイトカラー業務、現在賃金が高い業務はコンピューターによって代替されると指摘された。
マッキンゼーが予測した「生き残る職業」
同様の研究報告はマッキンゼーも行っており、世界46カ国800の職業を調査したところ、2030年までに最大8億人の労働者がロボットによる自動化の影響を受け、職を失う可能性があると指摘している。ロボットによる自動化で、どの程度影響を受けるかは国によって差があり、ドイツやアメリカでは3分の1の労働者が、日本では半数の労働者がロボットによる自動化の影響を受けるとし、新しい職業に従事するための再教育が必要だと提言されている。
ロボットに代替される職業としては、機械の操縦や飲食業に携わる人、住宅ローンのブローカーやパラリーガル(弁護士の監督の下で定型的で限定的な法律業務を行い、弁護士の業務を補助する人のこと)、会計士、バックオフィスの職員などが挙げられている。一方、ロボットによる影響を受けにくいのは、医師、弁護士、バーテンダー、庭師、配管工、介護職といった専門性が要求される職業だという。
将来を見据えた就職「7つの視点」
大企業を取り巻く環境の変化やAIとITの進展を踏まえて、今後どのような職業を選択すればよいか、考察してみると、下記の7つの視点が浮上してくる。
(1)AIやITに代替できない仕事を選ぶ
最初に、外せない条件から。単純作業を繰り返す仕事なら、人間よりもロボットの方が得意だ。銀行、小売、物流では、AIに代替される職種が出てくる。人間にしかできない仕事や職種を選んで、自分の強みを発揮しよう。
(2)「どの企業か」より、「どんな職業に就きたいか」を考える
どの企業に就職しようかと考えるのではなく、自分はどんな職業に就きたいを考え、職種のキャリアを磨ける企業を選択する。これは新卒だけでなく、転職時にも有効な視点だ。終身雇用が前提ではなくなった社会では、どの企業にいたのかよりも、過去にどんな業務に精通していたかが問われる。外資系企業の場合は、どんなビジネススキルを磨いてきたのかが重視される。
(3)学生の人気企業ランキングに入っている企業はあえて避ける
内燃機関を使わない自動車が主流になる可能性を考えると、自動車メーカーですら明日はどうなるか不透明だ。大学生の就職人気ランキングの上位に入っている企業には、10年後には凋落する可能性がある企業も存在し、にもかかわらず多くの学生が応募するので競争率は高い。一方、知名度はなくても、今後成長が見込める事業領域で活躍している中堅中小企業が存在する。入社しやすく、しかも長期にわたって自身の力を存分に発揮できる可能性がある。上場の予定があり、社員持ち株会がある企業なら、社員でも上場益を期待できる。
(4)競争相手が少ない市場で、専門家やプロを目指す
日本人は横並び発想が強く、知らぬ間に他人と同じ行動を取ってしまうことが多々ある。大勢の人が選ぶ道は競争相手が多く、レッドオーシャン(熾烈な市場)になる。逆にブルーオーシャン(競争が少ないのに有望な市場)なのは、ごく一部の人しか選ばない職業や企業だ。こうした領域で活躍している企業は目立たないため、人が集まらないことが多く、入社したら大事にしてくれる。ブルーオーシャンで専門家やプロとして通用する人材を目指せば、企業にいても待遇はよくなるはずだ。
(5)進化できる職種を選ぶ
仕事の内容が誰でもできる作業で、10年前と比較して業務内容に変化がない職種は避けた方が得策だ。キャリアを積めば積むほど、仕事の中味や業務内容を高度化していける職種を選ぼう。
(6)資格だけでは食えないと知る
会社員人生が不透明なら、「士業」でという考えも出てくる。しかし、生き残りにしのぎを削り、熾烈な競争に陥っているのは「有資格者」も例外ではない。例えばコンビニエンスストアよりも数が多く、虫歯治療の技術だけでは生き残れなくなった歯科医、ITに業務が代替されていく税理士、独占業務を持っていない(多くの資格取得者は、法律で独占業務が認められている)中小企業診断士などだ。資格があっても、取引先を見つける営業力を持たない専門家は、生きていけない時代だ。もし資格で勝負したいなら、資格取得と同じ労力をかけて取引先を開拓する営業が必要だ。
(7)家業を見直す
実家や配偶者の親が家業を持っているなら、家業を継ぐことも選択肢に入れる。家業の経営が芳しくないのは、旧態依然とした経営方法に起因することが多い。ニッチ(極めて限定された市場やビジネス)な領域では競合企業が少なく、独自性を発揮できる家業もあるはずだ。自身が経営者になれば、AIやITを活用して人件費を減らし、収益性を高めることも可能だ。家業を見て、改善する余地が具体的に脳裏に浮かぶようなら、家業に取り組む価値があるかもしれない。