これからの経営者は、マスメディアの情報を鵜呑みにすることなく、SNSなどを駆使して自分なりに裏付けを取る習慣が必要でしょう。そして、何より重要な情報源は経営者向けセミナーで出会った専門家、協力会社の担当者や経営者、異業種のプロフェッショナルの生きた「知」です。(全2回、後編)
マスメディアの情報に含まれる「主観」に注意!
これからの経営者は、どのような情報源からどんな情報を収集して分析し、自社の経営判断を下す必要があるか検討してみよう。
(1)テレビや新聞などマスメディアの報道を鵜呑みにせず、他の情報源と比較し、検証した上で、自分の情報にする
日本やアメリカは言うに及ばず、多くの国で「既存メディアへの不信」が表出している。この背景にはネットの誕生によるSNSなど新たなメディアの出現が大きく影響している。
マスメディアしかなかった時代には、テレビや新聞という情報インフラを独占できたため、ジャーナリストは偉いと錯覚し、「主観」に満ちた報道が許されてきた。情報を裏付けたり、事実かどうかを比較検討したりすることができずにいた昔の生活者は、報道された情報を鵜呑みにするしかなかった。
しかしネットが生まれ、SNSなどが普及すると海外も含めて多様な情報が入手できるようになり、個人が情報を調べ、また情報を発信することが容易になった。そのため偏向した報道やジャーナリストの主観に満ちた批評を検証すること可能になり、これが「既存メディアへの不信」が生まれた原因だ。
民放テレビ局では視聴率が優先されるため、報道される内容は視聴率が取れる内容に偏りやすく、ニュース番組がワイドショー的演出になる要因だ。新聞は新聞社によって報道内容や論調に大きな違いがあり、一紙だけの情報を鵜呑みにするのは経営者にとって得策でない。
ジャーナリストやメディアの報道姿勢は「主観」に基づいていることを経営者は自覚し、正確な情報や事実を知るには、裏付けを取ることが前提の世の中になった。
自分の反対の意見を持つ記事を読むべし
(2)ネットにはマスメディアが報道しない「地味」だが「貴重」な情報がある一方、フェイクや偏ったコンテンツがあるので出典元や発信者について裏取りする
個人のブログやフェイスブックに代表されるSNSの投稿の中には、専門家が書く有益な情報がある反面、デマや偏見、やらせといったコンテンツも存在する。SNSには「シェア」という便利な機能があるため、誤った情報やデマを友人が拡散させたことで、妄信してしまう事態も起こる。SNSで個人が発信している情報については必ず裏取りし、発信者が信頼に足る人かどうかを調べて利用する。
フェイスブックでは「いいね」を押した情報によって、自分が好む情報が主に掲示されるようになるため、多様な見方を必要とする人は、あえて自分とは反対の意見を持つ書き手のコンテンツも見ておくことも必要だ。
ネット検索する際に注意したいのは、医学情報サイトに代表される「まとめサイト」だ。「まとめサイト」は検索すると上位に掲載されるように、サイトやコンテンツ内に検索キーワードが仕込まれている(SEO対策)ため、つい閲覧してしまう人が多い。「まとめサイト」の記事の中にはとんでもない情報があるが、そうしたコンテンツが溢れる理由は「編集」や「校閲」の過程を経ていないためだ。他者のコンテンツからの無断引用やでたらめな記事を掲載して問題を起こし、多くの「まとめサイト」が閉鎖されたことは記憶に新しい。
「まとめサイト」の多くはページビューを伸ばして広告収入を増やすことを目的に制作されており、広告収入やアフィリエイトを使ったビジネスモデルであることを踏まえておきたい。閲覧者を増やすために意図的に他者を誹謗する記事を載せるサイトも存在し、こうしたメディアはジャーナリズムではないことを知っておこう。
(3)官公庁の統計・調査データを検索して活用する
有益な統計データや調査データが必要になった際は、官公庁が実施した統計・調査を閲覧するのが最適だ。検索エンジンで探す方法もあるが、「e-Stats」とその活用術を読めば、目的にあったレポートを効率よく見つけることができる。
「e-Stats」(政府統計の総合窓口) http://www.e-stat.go.jp/
また、国や民間企業などが提供している主要な統計データをグラフや図表などに加工して一覧表示し、視覚的にわかりやすく、簡単に利用できる形で提供するシステムが統計ダッシュボードだ。従来、調査データはダウンロードして、見やすいように自身で加工する必要があった。だが統計ダッシュボードは政府の大規模調査の結果をわかりやすくビジュアルに表示させることができ、この仕組みを一体化させブラウザ上で閲覧できるようになっている。
「統計ダッシュボード」 http://data.e-stat.go.jp/dashboard/
「統計ダッシュボードの使い方」 http://data.e-stat.go.jp/dashboard/static/whatIs/
欲しい情報をネット上から最短で見つけるには?
(4)検索エンジン(Googleなど)で統計・調査データを検索して利用する
効率的に求める情報を検索して入手するには、「検索コマンドによる検索方法」を活用するといい。主な検索コマンドをご紹介しよう。
『AND検索』
複数のキーワードのすべてを含んだページを検索したいときや、検索結果を絞り込みたい場合に使用する。複数のキーワードをスペースで区切って入力すると、それらのキーワードがすべて含まれるページを検索できる。検索キーワードを追加すれば、検索結果を絞り込むことも可能だ。たとえば、中小企業で急成長している事例を探すなら、検索窓に「中小企業 急成長 事例 」とスペースを入れて入力して検索する。
『フレーズ検索』
ひと続きにまとまった文章やフレーズで検索したい場合に使用する。ひと続きにまとまった文章やフレーズを検索したい場合は、全体を「”(ダブルクォーテーション)”」で囲って検索する。たとえば、接待で個室のあるレストランを探す場合なら、検索窓に”接待に使える個室のあるレストラン”と入力して検索する。
『OR検索』
複数のキーワードのいずれか一つを含むページを検索したい場合に使用する。複数のキーワードの間に「OR」を入れる(ORは半角大文字、ORの前後に半角スペースを入れる)と、入力したキーワードのどれか1つを含んだページが検索できる。たとえば、中小企業で急成長している事例や衰退している事例を探すなら、検索窓に「中小企業 事例 急成長 OR 衰退 」とスペースを入れて入力して検索する。
『マイナス検索』
特定のキーワードを含まないページを検索したい場合に使用する。「-」(マイナス)の後にキーワードを続けて入力すれば、そのキーワードを含まないページを検索できる。たとえば、出張する際にセルフサービスでない朝食が食べられるホテルを探すなら、検索窓に「ホテル-セルフサービスの朝食」と入力して検索する。
『site:検索』
特定のドメインやサイトに限定して検索したい場合に使用する。特定のドメインやサイト内だけを対象に検索したい場合は、「site:」の後にドメイン名を追加(他キーワードとの間には半角スペースを入れる)する。たとえば、フェイスブックの中だけで自動車に関する情報を検索したい場合には、検索窓に「site:facebook.com 自動車」と入力して検索する。また日本の政府機関のドメインならsite:go.jpと入れる。
『TITLEWORDS検索』
ページのタイトルに特定の文字列が含まれているページを検索したい場合に使用する。ページのタイトルに指定した文字列が含まれるページを検索したい場合は、「TITLEWORDS( )」の( )内に文字列を追加(他のキーワードとの間には半角スペースを入れる)する。たとえば、カズオイシグロ氏の『日の名残り』の書評を調べたいなら、「TITLEWORDS(書評)カズオイシグロ 日の名残り」と入力して検索する。
『URLWORDS検索』
URLに特定の文字列が含まれているサイトを検索したい場合に使用する。URLに特定の文字列が含まれているサイトを検索したい場合は、「URLWORDS( )」の( )内に文字列を追加(他キーワードとの間には半角スペースを入れる)する。たとえば「URLにmarketingが含まれるサイトから投資に関するページ」を調べたいなら、「URLWORDS(marketing) 投資」と入力して検索する。
『filetype検索』
filetype:は検索対象のファイル形式を指定して検索する際に使用する。レポートはPDF形式の場合が多いので、「filetype:pdf」という検索コマンドにし、ワードの場合はdoc、エクセルならxls、パワーポイントならpptと、ファイルタイプを指定して検索できる。
社長にとって、何より大切な情報源とは?
(5)日本のテレビが報道しない海外情報は、記名記事の海外雑誌日本版を参考にする
2015年1月にパリで風刺週刊紙のシャルリ・エブドがイスラム過激派に襲撃され12名が殺害された事件や同年11月のパリ同時多発テロで120名以上の方々が亡くなった事件はマスメディアが大規模に報道し、ツイッターにも多くの投稿が行われた。フェイスブックでは哀悼の意を示す機能を提供したところ3日間で1億2000万人以上が利用している。
雑誌『ニューズウィーク日本版』。週刊で、デジタル版もある。
その一方、2017年10月14日に起こったソマリアの首都モガディシオで起きた爆弾テロでは300名を越える犠牲者が出たが、テレビをはじめとする日本のマスメディアの注目度は非常に低かった。またパリ同時多発テロの前日にレバノンの首都ベイルートで連続自爆テロが発生し40名以上が亡くなっているが、やはり大きく報道されなかった。
ヨーロッパやアメリカの事件はメディアが注目するが、アフリカ社会やイスラム圏の動向は報道されることが少なく、ソマリアのようにインターネットが普及していない国ではネット経由で情報が拡散されない問題もある。日本国内では中国や韓国の報道は多いが、その他のアジア諸国の報道は限られている。
日本にいながら世界の動向を把握する必要があれば、ニューズウイーク日本版が参考になる。どの記事も記名記事で掲載されており、情報発信者を特定できる。
(6)専門家のブレーン、ビジネスパートナー、異業種の年下の友人から新たな情報や視点を得る
経営者の力量と判断力を決定づけるのは、やはり有能な人材との人的なつながりだ。仕事や経営者向けセミナー・研修を通じて面識を持った専門家、ビジネスをする上で欠かせないビジネスパートナーや協力会社の担当者や経営者、異業種で専門性を発揮し自身にはない知見を持つ年下の知人や友人などは、大切な情報源だ。
有能な人は、かならず有能なブレーンを擁している。彼らは「利」でなく、「知」や「情報価値」でつながっている。相手が求める情報や知恵をこちらもが惜しみなく提供すれば、自分が必要なときには相手が支援してくれる。利のつながりは金銭やメリットがなくなれば霧散するが、知や情報価値を持つ者同士なら関係が途絶えることはない。
大切な人たちにいつでも惜しみなく知と情報を提供していれば、相互の関係が切れることはない。貴重な情報を絶えず提供できる経営者には、必ず重要な情報がもたらされる。経営者が価値ある情報を発信できる情報源になることが、自身の情報価値と存在価値を高めていくのだ。