コラム

給料30万円の人は、いくら稼ぐ必要があるのか?

年収1000万を受け取れる人の条件

掲載URL:https://president.jp/articles/-/26292

コラム プレジデントオンライン

多くのサラリーパーソンは「なんでこんなに給料が安いのか」と考える人が多く、経営者は「なぜ高い給料を払わないといけないのか」と思っている。このギャップは、サラリーパーソンの無知によるものだ。高い報酬を要求されても、経営者がやむなしと納得できるのはどんな人材なのか。この際、ハッキリさせておこう。

30万円稼げばいいわけじゃない

「給与が少ない」と、とかく社員はぼやく。自分の給与について額面(税金や社会保険料などが控除される前)ではなく、税金や社会保険料などが引かれた手取り金額が、給与だと誤解している人がいる。残念ながらこうした社員は、経営者から評価を受けることはない。企業が社員のために負担しているのは、給与だけではないことを知らずにいるからだ。

企業は、社会保険料(社員の月額給与の15%程度を会社が負担)、将来支払いが発生する退職金の積み立て、福利厚生費、オフィスの家賃、広告宣伝・ホームページ制作や更新に代表される顧客の獲得やPRの費用、機械設備の購入費用や修理費用、パソコンやプリンターなどオフィス機器の経費、社用車の車両経費や燃料代、通信費、事務所で使う事務用品などの消耗品など数多くの経費を負担している。

経理や人事のコストもかかってくる

企業では、1人でビジネスを動かすことは不可能だから、総務や経理などの内勤業務の人材も欠かせない。こうした人たちの給与も、経費として必要になる。企業の労働分配率を3分の一とみると、月30万円の給与を受け取っている社員であれば、給与の約3倍の粗利益が必要になる。

また多くの企業は、商品を仕入れることが必要だ。たとえば、販売価格が100円の商品を売るときに、70円で仕入れた場合には、「100円(売値)-70円(原価)→30円」の利益になる。この場合、粗利益率は30%となる。仮に粗利益率30%の商品を売る企業の場合、社員1人当たり30万円のコストが必要であれば、30万円÷30%=100万円 となり、社員1人当たり月に最低100万円(損益分岐点の金額なので利益は出ない)以上の売上金額を捻出する必要がある。その企業の労働分配率が三分の一だと、30万円の経費が必要な社員の場合には、90万円の荒利益が必要になり、90万÷0.3=300万円の売上げを上げる必要が出てくる。

1つの目安だが、年俸が400万円の人の場合だと、400万円×3(労働分配率が三分の一)=1200万円の荒利益を捻出する必要がある。この計算をした上で、それでも自分の給与や年俸が低いと言える人がどれだけ存在するだろう。

年収1000万円は、手取りで700万円になる

プロスポーツ選手の契約が更改され、高額な年俸が報道されると、その金額を聞いてうらやましく思う人は多い。また人材紹介会社などは「目指せ1000万円プレーヤー」などといったうたい文句を広告に使う。年俸の額面に対して、税金や社会保険料などを差し引くと、手取り金額がどれだけになるかを知っている人は少ない。

諸条件によって金額は変わってくるが、ざっくり年収と手取り金額の関係を挙げると、600万なら440万円、1000万なら700万円、1500万なら970万円、2000万なら1250万円、3000万なら1750万円、といったところだ。3000万円では、4割以上を差し引かれる。

日本のサラリーパーソンは自分で税金の申告を行わず、会社が代行してくれる。そのため、税金や社会保険料の自己負担額を意識せずに暮らしている。高額な年俸を得ている人の話を聞くと、額面金額がそのまま手取り金額だと錯覚する人が出てくるのには、こうした背景がある。高額な年俸金額に見えても、実際の手取り金額は、思ったほど多くない。これが日本の実態だ。

中小企業経営者は、年収を低く抑えている

リスクを取って事業を起こし、ベンチャーの経営者やオーナー経営者が成功した見返りとして、それなりの報酬を得るのは当然だ。アメリカの場合は、グーグルCEOのサンダー・ピチャイ氏の年俸はおよそ210億円、ディスカバリー・コミュニケーションズ(ディスカバリーチャンネルなどケーブルテレビ向け専門チャンネルを数多く運営するアメリカのメディア関連企業)CEOのデイビット・ザスラフ氏は約165億円。GoPro(ゴープロ)創業者のニック・ウッドマン氏は約81億7400万円と、日本企業の経営者とは桁外れの報酬を得ている(データは、2014年の米国会社四季報から引用)。

東京商工リサーチが2018年3月期決算で有価証券報告書が出ていた国内企業2421社を対象に調査したところ、報酬が1億円以上の役員を開示した上場企業は240社、人数は538人だった。これはあくまで大企業であり、その多くはオーナー経営者や創業者ではない。

中堅中小企業の創業者やオーナー経営者はこうした動きには冷ややかだ。事実、中堅中小企業では、経営者は自分の年俸金額を低く抑え、会社に利益が残るようにする人が多い。年俸を増やせば企業の負担は増える一方だが、手取り金額は増えないので、無闇に年俸を多くしても意味がないと考える経営者が多い。会社の自己資金を増やし、経営基盤を磐石にしようとする姿勢がそこにある。

「社員を働かせて、社長は楽でいいよな」と思うなら、自身で収益を上げる方法を考えられられるか、自問してみればいい

才能も実力も兼ね備えたビジネスパーソンなら、それなりの報酬がほしいと考えて当然だ。自分の年俸を負担するために必要な利益を、生みだせる人なら、高額な年俸を要求してもよい。だが、企業が雇用する社員はその人だけではない。組織が求めているのは、企業全体の高収益体制に貢献できる人材だ。

「経営者は高額な年俸をもらっていて、いい身分だ」「社員に働かせて、社長はいいよな」などと口にする人をしばしば見かける。もし本当にそう思っているなら、自身でも「収益を上げる仕組み」をつくり上げればいい。経営者が自らに課している義務や責任を踏まえたうえで、モノをいうべきだ。

サラリーパーソンには「給与は会社からもらうもの」だと考えている人が多いが、本来「報酬とは自らの手で稼ぎ出すもの」だ。サラリーマンを辞めて、自営業やフリーランスになった人たちは、会社勤めをしていたときにもらっていた給与の金額を、自力で稼ぎ出すことがいかに大変かということにすぐに気づく。しかも、事業の場合、売り上げた金額に対して、後から税金が追いかけてくる。

高額の報酬を受け取れる人の条件
企業に雇用されている人と経営者との間の溝は、こうした認識の違いから生まれる。企業から認められ、チャンスをものにした高収入サラリーパーソンは、企業のコストと自身の年俸との関係を踏まえたうえで、結果を出している人たちだ。高額な報酬を望むなら、それなりの結果を出せばいい。

また、事業を起こした人は、「社会が求める価値を提供しながら、収益を上げる仕組み」をつくり、人やシステムなどに必要な経費を捻出したうえで、自分の報酬を決めればいい。もちろん、サラリーパーソンと違って、経費も自身の年俸も自分の手で稼ぎ出さなければならない。