サービスに一流と二流があるように、客にも一流と二流がある。一流の客は、サービス業の人たちに好かれ、気持ちのよい接客、時には格別の対応を受けている。最高のサービスを引き出せれば、接待や会食の同席者にも大いに満足してもらえる。一流の客には、共通する行動パターンがあるという。
光る、ホテルマンのアドバイス
知り合いのビジネスパーソンが、海外のホテルで大切な取引先と会食をした。そのときの話をしたい。
場所は、彼が滞在するホテルのダイニングだった。メートル・ドテル(給仕長)があいさつに現れ、感謝の言葉とともに、今夜の会食で事前に注文されたメニューの内容、そして料理に合わせてセレクトされたワインの説明がなされた。そのダイニングを少しでも知る人なら、納得するメニューとワインの選択だった。取引先は、彼の見事な配慮に感銘し、商談も上手くまとめることができた。
彼はその国を訪ねるのは初めてであった。にもかかわらず、プロの卓越したサービスを引き出した。これは、偶然でもないし、幸運な出来事でもない。まず彼は、日本のホテルマンから助言を受けて、ダイニングが充実したホテルを予約していた。さらに、ホテルマンから次のようなアドバイスを受 けた。
「会食前にホテルのダイニングを訪ね、給仕長に会うといいでしょう。会食の目的を説明し、テーブルの位置、そして料理とワインの内容を相談してください」
ホテルマンが彼に与えた「力」
彼は現地のホテルに到着すると、コンシェルジュ経由で、給仕長との打ち合わせをセッティングしてもらった。そのときの相談内容は、
・ビジネスミーティングなので、商談に集中でき、スタッフの目が行き届くテーブル席を用意してほしい
・商談を心地よく進めるために、ホテルのシェフが得意とする料理と相性のよいワインを選んでほしいこと。また、会食相手は魚が苦手であること(秘書経由で把握)
・会計は自分がするので、相手が支払うといっても受け取らないでほしい
という3点だった。
給仕長からは、至れり尽くせりの回答を得ることができた。打ち合わせを終え、彼は給仕長に心づけを渡した。これもまた、助言通りだった。事前の打ち合わせと給仕長の心遣いにより、常連顧客のようにもてなされ、いい雰囲気の中で商談を進める事ができたという。
彼のケースは特殊と考えるかもしれないが、そうではない。彼にアドバイスをしたホテルマンが教えたことの本質を考えれば、まねることは難しくない。その本質とは何だったのか。
毎回、感謝の気持ちを言葉で伝える
同じ店を利用しても、店の側から手厚いもてなしを受けられる人には、共通する心遣いや行動パターンがある。それは、次のようなものだ。
気に入った店には、頻繁に通う
初めて利用し、そのお店が気に入ったら、数回続けて利用し、自分の顔を覚えてもらう。
利用した際には、お店の人たちとほどよく会話をする
入店時や主人があいさつに来たときには、ほどよく会話をし、その場の雰囲気を和らげる。一見、敷居の高そうな店を会食場所に選んだ場合には、これで同伴者の気持ちはなごむ。カウンター席の場合、常連だからといって、板前さんを独占しない。
名刺の肩書きを振りかざさない
お店で気に入らないことがあると、「俺を誰だと思っているんだ」などと口にする人を時折見かける。自分の肩書きや会社名に依存している人ほどこれを振りかざせば、誰もが低姿勢になると誤解している。男性は、自分のプライドが傷つけられると怒り出す。だが、権威を振りかざすのは逆効果だ。
予約は可能な限りメールにし、スタッフの名前と感謝の言葉を必ず添える
電話での予約では「言った」「言わない」が起きることもあるので、詳細が伝えられて記録が残るメールを使う。秘書などに代理で予約してもらう場合には、人数・食材・酒量・予算、接待なのか通常の会食なのか、土産の有無などを伝えるように依頼しよう。また、「○○さん、いつもありがとう 」と個人名をつけて御礼を添えるのも忘れないようにしたい。
同席者の情報を提供しておく
同席者がVIPの場合、問題のない範囲でその方の情報を店側に提供しておく。そのほうが店側もサービスがしやすいからだ。
ドタキャンは絶対しない
体調不良などでキャンセルする場合、数日前のキャンセルなら、別の予約日を伝えるようにする。また当日、同席者が利用できなくなったら、別の人を誘って利用しよう。当日のキャンセルは、仕込みの関係で店側に損害が出るし、自分の信用を失うからだ。
クチコミサイトに良い点を記載する
お店のクチコミを記載できる場合には、きちんと認める評価を行う。良いクチコミは、良い顧客を増やす効果もあるからだ。もし、こうして欲しいという希望があれば、それもあわせて記載しよう。たとえば、お酒の品揃えや価格帯などは、リクエストしておくと対応してもらえることが多い。
リクエストに応えてくれたら、心づけを渡す
予約時にあれこれとリクエストし、きちんと対応してもらったら、心づけを渡そう。それだけでフロアスタッフのモチベーションは上がり、次回接客してもらう際にもよくしてもらえる。
毎回、感謝の気持ちを言葉で伝える
「お金さえ払えば、サービスを受けて当然だ」と考える人は、本当のもてなしは受けられないだろう。スタッフが心遣いをしたくなる人になる唯一の方法、それは予約のときも、利用した際も、毎回きちんと礼を口にして伝えることだ。
「どうもありがとう。とても楽しかった」
「いつもながら心遣いのあるサービスをしてもらって、うれしかった。どうもありがとう」
「お客様がとても喜んでいらしたよ。本当にありがとう」
こうした感謝の言葉を毎回口にしている人ほど、厚遇を受けている。
客人力を磨けば、大きな武器になる
サービス業の人たちなどから厚遇を受けられる「力」のことを「客人力(まろうどりょく)」と呼んでいる。「客人力」を発揮する人は、ホテルやレストランの現場で働く人たちはもとより、その場にいるすべての人たちを快適にする。これこそが、厚遇を受ける人の共通点だ。
「客人力」があれば、自分が気持ちいい食事ができるだけでなく、接待や会食でも相手をより満足させることができる。取引先と食事をする機会が多いビジネスパーソンには、大きな武器になるはずだ。